「万能の天才ではなく、探求者としてのダ・ヴィンチ」ルーブル美術館の夜 ダ・ヴィンチ没後500年展 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
万能の天才ではなく、探求者としてのダ・ヴィンチ
どうせ「万能の天才」といった、キャッチーなアホらしい言葉が並ぶのだろうと、全く期待しないで観に行った。
ところが、とても真面目な地に足の着いた内容で、(自分は観ていないが)展覧会の解説としては申し分ない映画であった。
さすがルーブル美術館である。
冒頭では、「絵画は、世界を再現する神聖な科学」というダ・ヴィンチの“信念”を、展覧会のテーマとした旨が語られる。
映画は、展覧会のキュレーター2人の解説を中心に、ヴァザーリの「画人伝」なども少し引用しつつ、絵画を時系列で辿っていく。
その生涯については、ごく簡単に触れられるのみで、あくまで展示品ベースの内容である。
展示品は、「空前絶後」という宣伝にふさわしく、寡作のダ・ヴィンチとはいえ、有名な作品の半分以上はカバーしている。ただし「最後の晩餐」は持って来れないので(笑)、16世紀の模写である。
炭素による強い吸収を利用した、赤外線反射による“リフレクトグラフィー”写真も、何度も出てくる(下描きが分かる)。
特に前半が素晴らしく、ダ・ヴィンチ芸術の真髄に迫っている。
“繊細な動き”を内在した表現。
形態模倣を超越した、生命感の追求。
彫刻から学んだ空間(3D)感覚。
輪郭線の拒絶。スフマート技法。
明暗の強調(キアロスクーロ)。
精密な表現を求めて、いち早く油絵を取り入れたこと。
捉えたい瞬間を得るまで何度も描くので、結果として“なぐり描き”したように見えるスケッチ。
ただし、個々の作品解説についてはありきたりで、自分でさえ、あまり参考になるところはなかった。
「“未完成の表現力”を求めて、わざと仕上げなかった」みたいな、「???」な解説も出てくる。
また、細かいタッチまで分かるような、拡大映像が出るかと期待したが、ほぼ無かったと言っていい。
しかし、「万能の天才」とか「哲学者にして科学者」といった空疎な修辞を並べることなく、上品でオープンな人柄の、絵画の「探求者」たるダ・ヴィンチの姿を描こうとした本作品は、自分にとっては素晴らしい新年のプレゼントであった。