劇場公開日 2020年11月27日

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「時代考証の再現度より、分かり易さを求めた児童映画の時代を越えて伝えたいこと」アーニャは、きっと来る Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0時代考証の再現度より、分かり易さを求めた児童映画の時代を越えて伝えたいこと

2021年8月30日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

ナチスの虐待からユダヤ人を救う第二次世界大戦の歴史考証の一編。舞台はスペインとフランスの国境沿いのピレネー山脈の麓のレスカン村で、主人公は代々続く羊飼いの13歳の少年ジョー。イギリスの児童文学者マイケル・モーパーゴの1990年に発表した『Waiting for Anya』を原作とし、イギリスとベルギーの合作映画となっている。その為か、登場するフランス人もドイツ人も英語で台詞を語る。また、主人公を演じるのがアメリカ人のノア・シュナップという少年で分かるように、これは時代考証を密にした実録の戦争秘話を語るコンセプトの作品ではなく、あくまで児童文学の平明さと優しさから誕生したイギリス映画であり、戦後40年以上過ぎて還暦に近い主人公ジョーが、当時の10代の少年だった自分と同じ年代の、今の若い人達に伝えたい内容自体に意味がある。
表現の脚本と演出に問題がない訳ではない。ユダヤ人ベンジャミンの義母アリスの元に庇護されるユダヤ人の子供たちがどう集まってきたのかの説明不足や、500頭にも及ぶ羊の移牧の表現力の弱さなど、描写力の不満が残る。ただそれらを指摘し列記してもあまり意味が無いと思う。簡略化した表現の絵本にケチを付けるようで、気が進まない。

ノア・シュナップは、綺麗な顔立ちで純真無垢な少年を好演している。勉強が苦手の田舎の少年までは演じていないが、主人公ジョーの切なさは充分伝わる。彼と敵対しながら不思議な友情を育むドイツの伍長役トーマス・クレッチマンのあまり表情に出さない演技も印象的で、中尉役のトーマス・レマルキスと対照的なドイツ軍人を表現している。知的障害のあるユベールとの交流も、時代背景から考えると珍しい。もう一人の主人公ベンジャミンのフレデリック・シュミットが渋い演技を見せる。但し、祖父役のジャン・レノとアリス役アンジェリカ・ヒューストンの貫禄の演技がやはり目立ち、最終的にはこの二人が作品を救っていると思う。ラストシーンの為に二人の再婚をエピソードに入れたのではないだろうか。その優しさがいい。

4年の捕虜収容所から帰還した父親が酔い潰れてベットに運ばれるところで、虐待を受けた父の背中を労わる母親の姿をドア越しに見詰めるジョーのカット。美しくも険しいピレネー山脈の山肌を移動する羊のシーンの俯瞰ショットの素晴らしさ。特筆すべきシーンも多く、特に鷲の飛翔をモンタージュしたカメラアングルがいい。伍長がジョーに聴かせるように朗読する詩の内容と鷲が結び付く。鷲から見える視点に神の存在を意味付けている。ジョーの行き着いた一つの言葉は、憎むものを哀れむこと。分かり易い表現で作られた青少年のための児童映画の良作である。

Gustav