「美しいピレネー山脈の映像は一見の価値あり。 シナリオは若干纏りに欠けるか…?」アーニャは、きっと来る たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
美しいピレネー山脈の映像は一見の価値あり。 シナリオは若干纏りに欠けるか…?
1942年のフランス南部を舞台に、ナチスドイツから逃れてきたユダヤ人との出会いをきっかけに成長する少年の姿を描いたヒューマン・ドラマ。
主人公ジョーの祖父、アンリを演じるのは『レオン』『ダ・ヴィンチ・コード』の、名優ジャン・レノ。
まず把握しておくべきは当時のフランスの情勢。
1940年5月、ドイツはベネルクス三国に侵攻を開始。フランスは主力をベルギーに派遣したが、その隙をついてドイツはフランスへ侵攻。ものの1ヶ月でフランスの首都パリを占領する。これによりフランスはドイツと休戦を結ぶが、フランス北部はドイツに占領されてしまう。
フランス北部に住んでいたユダヤ人は、中立国であるスペインへ亡命する為、フランス南部へと向かった。
フランスとスペインの国境、ピレネー山脈に住む村人たちはそうしたユダヤ人たちを救うため、亡命に手を貸した。この村人たちの献身のおかげで数千人に及ぶユダヤ人の命が救われた訳です。
本作はこうした歴史的事実を下敷きにした物語。
原作はスピルバーグの映画『戦火の馬』の原作者としても有名な児童文学者マイケル・モーパーゴの同名小説。
まず特筆すべきはロケーションの美しさ。
この物語はピレネー山脈で撮影しないと意味がない!という信念のもとで映し出される山々の神々しさは圧巻。
この大自然を観ていると、それだけで心が洗われるよう。
80年前、この地で実際に映画のような出来事が行われていたと思うと、襟を正さなければならない様な気がしてきます。
第二次世界大戦中のフランスが舞台だが、派手な戦闘描写などはない。全体的に地味で緩やかな作風。
しかし、その緩さや地味さが映画の身の丈にあっており、心地良い鑑賞体験をもたらしてくれる。
ジョーとその友人ユベール、そしてドイツ人下士官ホフマンとの交流は感動的。
特にホフマンがユベールに双眼鏡をプレゼントする場面には目頭が熱くなった😢
娘アーニャの到着を待つユダヤ人の父親ベンジャミンとジョーの交流こそが映画で最も大切な点。
ベンジャミンとの交流と別れが、ジョーを成長させる。そこが物語のキモなのに、イマイチ上手く描けていない様に感じるのは、ベンジャミンの描写が少なかったから。
どちらかというと、ジョーとホフマンとの交流に重きが置かれていたように感じ、大切なベンジャミンとの交流があまり描けていなかった様に思う。
この亡命作戦には村人全員が関わっている。だからこそ感動的でドラマチックな展開なわけだが、そこは意外とあっさり。
ドイツ兵に匿っていることがバレると処刑されてしまうのだから、もっと住民間の葛藤が描かれてもよかったのでは?
あと、ユベールの悲劇は必要だったのだろうか?なんか取ってつけた様なやっつけ感がある。
作中の時間の経過やジョーの父親の描き方でも思ったけど、結構細部が雑に作られている。せっかくの良いロケーションとテーマなのにそこが足を引っ張っているなぁ、と感じてしまった。
ルックが非常に美しいし、物語に暖かみもある、嫌味のない映画。
それだけに、シナリオを煮詰めればもっと面白くなる作品だと思ってしまい、勿体無さを感じてしまう。
ピレネー山脈の美しさは息を呑むほどなので、ヨーロッパの風景に興味がある人は鑑賞の価値ありです!