「反戦の英雄として讃えたい」アーニャは、きっと来る 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
反戦の英雄として讃えたい
主役が数日前に鑑賞した映画「エイブのキッチンストーリー」と同じノア・シュナップだが、本作品は「エイブ・・」とは国も時代もまったく違っているので、抵抗なく鑑賞できた。ただ、フランス南部が舞台なのに話す言葉は英語というのが少し変な感じがしたが、時代劇が現代語で演じられるようなものだと納得することにした。
物語は長閑な村にナチスドイツ軍がやってきてユダヤ人を探して処刑しようとしている中、純朴な羊飼いの少年が隠れているユダヤ人と子どもたちを救おうとするドラマである。主人公ジョーを演じたノア・シュナップはやっぱり上手い。観客はジョーの不安と恐怖を共有し、その勇気ある行動にハラハラすることになる。
ドイツ軍の中には、戦争に疑問を持ちユダヤ人の弾圧はナチスによるマッチポンプであることをジョーに告白する将校もいて、ジョーは戦争の理不尽を少し理解する。戦時中の日本人がそうだったように、ドイツ人の中にも反戦思想の持ち主もいたはずだ。戦時中は国家主義から敵国と敵国民を同一視してしまうが、我々が日本人とスガ政権を同一視してほしくないのと同じくらい、どの国にも反体制的な人々はいるし、いたはずだ。
ライフルを墓地に隠す伏線は最後に回収される。障害者だったジョーの友だちは反戦の英雄として村の人々の記憶に残ったことだと思う。決してハッピーな結末ばかりではないが、それもリアリティだ。ナチスドイツという圧倒的な暴力を前にして屈することなく耐え抜いた村人たちと、勇敢に行動したジョーも、やはり反戦の英雄としてその生き方を讃えたいと思う。
日本でナチスドイツの役割を果たしたのは特別高等警察だ。精神の自由まで奪おうとした理不尽な暴力集団である。反戦の国民にできるのは表立って反対して殺されるか、面従腹背で生き延びるかだ。押し殺した怒りが戦後の復興のエネルギーになったのは間違いない。国家よりも個人の幸福が優先される世の中に漸くなったのだという時代だった。
しかし最近では再び個人よりも国家が優先されるような風潮が蔓延しつつある。トランプのアメリカ・ファーストがその一番手だ。アメリカ・ファーストは、アメリカンピープル・ファーストではないことに、当のアメリカ人が気づいていないフシがある。日本人も「美しい日本」が日本国民のことでないことに気づく必要がある。第二の関東軍、第二の特高を生まないためにはナショナリズムの陥穽に嵌まらないことだが、東京オリンピックを未だに期待している人々が多いのがかなり不安である。