「根は階級格差か」ニューオーダー LSさんの映画レビュー(感想・評価)
根は階級格差か
(劇中で明示的な説明がないので想像だが、)メキシコを擬した某国で、貧富格差を背景に起こったデモが暴動と上流階級への襲撃・略奪に発展、これを契機に軍が政権を掌握(クーデターか戒厳令か)。秩序回復がままならない中、下級兵士の一団が上流階級子弟の誘拐ビジネスに精を出す。
裕福な一家の娘である主人公も誘拐された一人で、事件は父の知己である軍政の指導者とおぼしき将軍の知るところとなり、当該兵士たちは即座に銃殺される。
そして、救出された主人公は彼女を保護した兵士により殺害される。彼女の解放に奔走した使用人の親子が誘拐の「犯人」とされ処刑される。
娘を失った父は将軍と並んで、自分の使用人や同様に犯人に仕立てあげられたのであろう人々が絞首される場に立ち会う。国歌とおぼしきファンファーレが鳴り響く。
ニューオーダーというタイトルだが、この映画は今までと違う新たな秩序の到来というより、
・階級格差と相互不信
・組織犯罪の担い手が実は政府側の人間
・治安組織は組織内の不正に厳しく対処するが(犯人兵士の死体がガソリンで燃やされたのは見せしめ)、身内の恥は隠蔽する(娘を殺害したのは明らかに口封じで、他の被害者も殺されただろう)
・暴力を持つ者が支配する
といった、今のラテンアメリカ(と決めつけられるほど知識がないが)社会の病巣的問題を濃縮したディストピアの一例として寓話的に描いたように思える。
特に、使用する側とされる側の間で育まれた信頼や疑似家族としての階級を超えた親愛の情が、無意識あるいは意図的な悪意により、下層階級へのヘイトとして固定化され、結局は支配の道具となってしまう様がどうしようもなくやるせなく感じた。
個人的胸くそ悪い映画のトップ3にランク入り。