緊急事態宣言 : 特集
実験的作品ではなく“事件的作品” 必見の映画はもう
見尽くした… そんな人にこそ薦めたい“非凡な一作”
日本を代表する5組の監督と豪華キャストが参加したオムニバス映画「緊急事態宣言」が、8月28日からAmazon Prime Videoで独占配信される。
現在もなお、世界中で続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。本作は、コロナ禍による緊急事態の記憶、それがもたらした変化や意味を「映画」として具現化したものである。
“実験的な試み”にとどまらない。5組のクリエイターたちによって創出された本作は、“事件的作品”として日本映画史に刻み込まれることだろう。
Amazon Prime Videoなどを利用し、“この機会に自宅で見ておくべき映画”はあらかた見尽くしてしまった……。そんな悩みを抱える読者は少なくないのではないだろうか。あなたがなんとなく閉塞感を覚え、世界とつながっていない気がしたら――本作の扉を開いてみてほしい。
コロナ禍をテーマに、名匠たちが映画をつくったら…
これまでの邦画とは一線を画す、事件的作品が完成した
[作品概要]5組の監督×豪華キャストで“コロナ禍の今”を紡ぐ
日本政府の緊急事態宣言後、映画業界でも劇場の休館や新作の公開延期に加え、撮影は休止または中止に。多くのクリエイターたちが貴重な発表の場や生活の糧を失った――。
そんななか、5組の監督たちが集った。「湯を沸かすほどの熱い愛」の中野量太。「愛のむきだし」の園子温。ユニット“非同期テック部”を結成したムロツヨシ&上田誠&真鍋大度。「時効警察」の三木聡。「ディストラクション・ベイビーズ」の真利子哲也。
彼らはコロナ禍を共通のテーマにするが、ジャンル・内容・言語にルールは設けず作品を創出。意外性と独創性に満ちた5つの物語を、私たち観客のもとに届けてくれる。コロナ禍が題材の「世にも奇妙な物語」をイメージしてもらえば、わかりやすいかと思う。
そして、それぞれの監督のもとに、豪華な面々が結集した。渡辺真起子、斎藤工、柴咲コウ、夏帆、岩瀬亮、内田慈ら……。主題歌はテクノミュージシャンの石野卓球氏が書き下ろしている。
[なぜ事件的なのか]製作の超スピード感、超作家主義―― 新時代の映画が爆誕
普通、映画が企画され、撮影、公開するまで、大体2年ほどかかるものだ。しかし本作は、緊急事態宣言を受けてすぐの2020年5月に企画され、同8月28日に配信が開始される。
3カ月ちょっと……信じられないスピード感で企画・製作が進んだことになる。コロナ禍が“旧時代”を崩壊させ、“新時代”へと強制的に時計の針を進ませた結果、こうした“従来ではあり得なかった作品”が実現したのだ。
Amazon Prime Videoではドラマ作品のように、1話ずつ分割して配信される。見ればわかるが、「配信だけど面白い」のではなく、「配信だからこそ面白い」のである。5作品を実際に鑑賞してみたが、製作期間の短さをまったく感じさせないクオリティだった。
それどころか各監督たちのアイデアに、ひたすら「そうくるか!」と唸らされるばかり。それぞれの創造性にすべてを委ねる“超作家主義”が、この結果をもたらしたのだろう。
多数製作された完全リモート作品とも、また毛色が異なる。“これまでにない試み”であり、映画の概念が根こそぎ変化しているこの時代を象徴する事件的一作である。
[だからこそ]自粛が日常になった今、見てほしい非凡な一作
緊急事態宣言の発出から早4カ月、もはや外出や活動の自粛は日常となり、自宅での映画鑑賞が主流となった現在。新作も不足しているだけに、Amazon Prime Videoなどで大体のコンテンツを見尽くした、という人も多いのでは?
そこへ登場する本作は、退屈な日常を打破する刺激に満ちている。そして、“今この瞬間、この時代を切り取っている”からこそ、“今この瞬間、この時代に見る価値”があるのだ。
「緊急事態宣言」をAmazon Prime Videoで見る!
Q:どの作品が面白い? A:全部良い、全部見よう。
各作品の物語と魅力を紹介 鑑賞の参考にどうぞ
鑑賞のガイドラインとして、“あらすじ”、出演者・監督、そしてどんなメッセージを受け取れるのかを、以下に記述していく。
第1話から順番に見るか? それとも好きな俳優・監督の作品から見るか? あなたのお気に入りの一本を、ぜひ見つけてほしい。
○渡辺真起子 × 中野量太監督 × デリバリー#1:「デリバリー2020」
監督:中野量太 出演:渡辺真起子、岸井ゆきの、青木柚
あらすじ:自粛生活が続くなか、離れ離れに暮らす家族が「誕生日は皆で祝う」というルールに従い、オンラインで集まった。画面越しにケーキを囲む母(渡辺)、娘(岸井)、そして息子(青木)。父は予定通り、午後7時に帰宅するという。だがこの恒例行事には、オンラインである以外にも、例年と違う点があった……。
「湯を沸かすほどの熱い愛」で絶賛を浴びた中野量太監督による物語。画面は演者のバストアップで構成されるので、それぞれの表情や仕草から染み出てくる“良さ”をじっくり堪能できる。意外な展開も見せるので、振り落とされないように。
メッセージは「思いは伝わる。こんなときでも」。どこかあたたかく、どこか切なく、そしてどこか可笑しみのある雰囲気も強く印象に残る。
○斎藤工 × 園子温監督 × ソーシャル・ディスタンス#2:「孤独な19時」
監督:園子温 出演:斎藤工、田口主将、中條サエ子、関幸治、輝有子
あらすじ:COVID-19収束後に現れたさらに狂暴なウイルスにより、自粛生活が数十年間も続く日本。人々は50メートルのソーシャル・ディスタンスを保ち生活していた。生まれてから一度も外に出たことのなく、生身の人間と会ったことすらない音巳(斎藤)は、外から聞こえる奇妙な音が気になるあまり、初めて家の外へ踏み出すが……。
時代を挑発する作品を撮り続ける、園子温監督による物語。もしも自粛期間が長引き、旧世代が残らず自然死するほどの時が経ったら……。「今が幸福だ。ストイック・ビューティフル」と自己暗示をかけるみたいにつぶやく音巳が、“それでも外に出る”、そこにドラマがある。
メッセージは劇中の言葉でもある「生きてるだけじゃ、ダメだ」。園監督からの、私たちへの強烈なラブレターなのかもしれない。
○ムロツヨシ × 非同期テック部 × デジタルテクノロジー#3:「DEEPMURO」
監督:非同期テック部(ムロツヨシ+真鍋大度+上田誠) 出演:ムロツヨシ、柴咲コウ、きたろう、阿佐ヶ谷姉妹
あらすじ:俳優ムロツヨシは、念願だった柴咲コウとの恋愛ドラマの撮影に挑んでいた。だが、ムロの様子がどうも変だ。戸惑う柴咲は、心配そうにムロに話しかける。「ムロさん、いつもと違うけど大丈夫?」。と、その時、撮影現場の扉が開いて入ってきたのは……!?
ムロの飄々とした佇まいはやはり全開。そこへ人気劇団「ヨーロッパ企画」の上田誠が演出する、「サマータイムマシン・ブルース」的にトリッキーな心地よさがみなぎる物語が加わった。さらに、革新的な映像表現を演出するメディアアーティストの真鍋大度が、予想を超えるギミックを繰り出す。
メッセージは「こんな時代だから、面白いこと、やろうぜ」。意外性が意外性を呼ぶ仕掛けで、芝居と物語の面白さが何倍にも膨れあがる。「そこからどうなる!?」と、のめり込みながら楽しめる一作だ。
○夏帆 × 三木聡監督 × 映画製作の奇妙な現場#4:「ボトルメール」
監督:三木聡 出演:夏帆、ふせえり、松浦祐也、長野克弘、麻生久美子
あらすじ:第二波が来る少し前。不倫で仕事を干された女優・鈴音(夏帆)のもとに謎のメールが届く。その指示に従って出かけた新作映画の主演オーディションで見事合格した彼女は、監督(松浦)からリモートで演技指導を受けることになるが……。
唯一無二のシュールな作風で日本映画界を独走する、三木聡監督による物語。夏帆扮する鈴音のマンション前に、「不倫女優」と書かれた風鈴(ダジャレだ)がぶら下がっているところから始まる。
メッセージは「街を捨てよネットに行こう」か。骨の髄までシュール、地の果てまで荒唐無稽、だがそれがいい! 論理的説明は不可能とも思える超展開が見る者のIQを乱高下させ、恍惚の映画体験へと導いていく――気がつけば、三木監督の術中から抜け出せなくなっている。
○世界各国の友人たち × 真利子哲也監督 × 新しい日常#5:「MAYDAY」
監督:真利子哲也 出演:各国の人々(日本パート:岩瀬亮、内田慈)
あらすじ:2020年5月。あらゆる国や地域で緊急事態が宣言され、世界中で自粛生活が続いていた。だが、風景や状況は全く違っても、地球上は同じ時間軸で繋がっている。北米、アジア、アフリカ、ヨーロッパ……。日本時間の19時ちょうど。世界はそれぞれの表情で過ごしていた。
「ディストラクション・ベイビーズ」など躍動感ある物語を紡いできた真利子哲也監督が、意外とも思える手法を選択した一作。世界各国の友人たちから寄せられたビデオレターを、ナレーションや解釈を交えない“観察映画”として編集・構成した。
風景の違いから、各地でwithコロナ時代をどう解釈しているのかが透けて見えてくる。メッセージは「それでも人は生きていく」だろう。作品は静謐に進むが、見る間中「世界はつながっている」という実感が駆け巡り、体が熱くなる。