「正面からアベ政治を糾弾する」シュシュシュの娘(こ) 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
正面からアベ政治を糾弾する
映画としての出来はそれほどでもない。無駄なシーンも多いし、冗長な表現も多い。逆に警察やマスコミが登場しないなどの不自然さもある。予算の問題が大きかったのだろうと理解はするものの、前半はかなりダレる。
ところが後半になると、俄然面白くなる。ちくわのシーンやタイトルそのものの伏線が上手に回収されていく。テーマは逃げも隠れもせず、安倍晋三による森友学園事件の証拠隠滅を断固として糾弾することである。赤城俊夫さんがモデルの間野幸次を井浦新が好演。この人には以前から反骨精神のようなものを感じていた。
ヒロインを演じた福田沙紀は立派だ。多分本作品のギャラは格安だったと思う。加えて権力批判の作品だ。有名女優は悉くオファーを断ったと思う。そもそもオファーさえできなかったのかもしれない。本人にまでオファーが届けば受けてくれたと思われる心意気のある女優も何人か頭に浮かぶが、それさえもマネジャー止まりだったのではないか。
で結局お鉢が回ってきたというところだろうが、この役を受けただけで立派である。ただ、もう少しいろんな表情ができればヒロインに感情移入ができたと思うが、本作品はほぼオタクのような印象だった。もし北川景子が演じていれば、作品そのものの印象も変わっただろうが、死んだ子の年を数えても仕方がない。
本作品を観ると、国や都道府県や区市町村にかかわらず、日本全国の役所という役所で公文書の改竄が行なわれている印象になる。実際にその印象は正しいと思う。特に数字だ。結果として欲しい数字になるようにデータを書き換えることなど、日常茶飯事に違いない。
公文書の隠蔽では、スリランカ人のウィシュマさんが入国管理局の留置場で亡くなった件で、入管が出してきた書類が真っ黒に塗り潰されていたのが記憶に新しい。同じようなことが日本全国の役所という役所で行なわれているに違いない。
もはや我々にできることは、公文書を改竄、隠蔽しない、情報公開をする政治家を選ぶことだけだが、そういう正しい政治家はなかなか選ばれないし、選ばれても少数派だから政治を動かすことが難しい。終映後に無力感を感じたのは当方だけではないと思う。
こういう映画にちゃんと予算がついて、北川景子みたいな一番人気の女優がヒロインを演じる日が来ればいいと願うが、もしそういう日が来たらこういう映画は必要がなくなることに気づいて、思わず苦笑してしまった。