「お見事です!」スパイの妻 劇場版 TRINITYさんの映画レビュー(感想・評価)
お見事です!
先日野田秀樹先生の「フェイクスピア」と言う舞台で、高橋一生さんの凄まじい芝居を観て、すっかり彼の芝居の虜になりました。
観るたびに別人になっている高橋一生さんの芝居を堪能したくて、コロナのせいで映画館で観そびれていた今作を拝見させて頂きました。
高橋一生さん演じる夫が日本国軍の闇に気づき、苦悩する様も素晴らしかったのですが、蒼井優演じる世間知らずの奥様が見事に変わりゆく様が何とも、はい、お見事です!
あの時代の神戸の様子と小洒落た衣装、趣味の映画など、ココロをくすぐられる美しい映像が満載のなか、ささやかな思い違いから産まれた嫉妬心。少しずつ変わっていく妻。
ドラマ的には事件の当事者である高橋一生の目線で進んでいくのがスパイ映画の王道だと思いますが、ここであえて夫ではなく、世間知らずの奥様の目線で進んでいくストーリー。
実際に夫はスパイではないが、世間知らずの妻目線には国に歯向かう夫はスパイ。
大事な夫と一緒にアメリカに行くのは、あの女でなく私。
私はスパイの妻。すべての原動力は自分の幸せ。
貿易で他国と付き合い、視野の広い夫と夫との小さな世界しか知らない妻。
大きな世界で起きている荒波に正義のために戦う夫と小さな世界で人に言われた事を鵜呑みにして、利己的に戦う妻の対比。
戦前の社会に翻弄された夫婦の物語が本当にお見事でした。
妻には嘘がつけないと言うまっすぐな夫。自分の幸せのために人を見殺しにしたり、盗んだりする妻。
密航の密告は妻を守り、自分の正義を貫くためであり、裏切ったのではない。
エンディングの字幕での夫の死亡報告の偽造。
そして数年後妻はアメリカへ渡った。
たったそれだけの字幕。
私は夫に呼ばれたのだと解釈した。
途中で夫が妻を捨てる決意をした瞬間があったのか、二度見して確認したが、どの瞬間にも妻を捨てようとする気配は感じなかった。
そして実験で他国民が殺された正義の為に戦った夫が妻を捨てる訳があろうはずがない。
ほとぼりの冷めた数年後に妻をアメリカに呼び寄せたのだろう。
そして自分の幸せのために妻はアメリカに走った。
お見事なエンディングです。
おはようございます。
今作、幾つかの解釈が考えられますが、私はTRINITYさんの感想と同じことを考えました。
それにしても、野田秀樹さんの舞台で、高橋一生さんの凄まじい芝居を観られた件、惹かれました。愛知県には来ないのですかね。
調べようっと‥。では、又。