「どっしりとした骨太な邦画として嬉しい作品です。」スパイの妻 劇場版 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
どっしりとした骨太な邦画として嬉しい作品です。
なかなか骨太な感じの作品で、蒼井優、高橋一生が共演とすると聞き、同じく2人が共演した「ロマンスドール」が凄く面白かったので、結構期待して観賞しました。
ちなみにドラマ版は未観賞。
で、感想はと言うと、観応えアリの重厚で骨太な作品です。
開戦間近の日本が満州で秘密裏に行っていた細菌兵器の研究を偶然に知ってしまった若き貿易商とその妻の物語で、日本が行っていた所業の顛末を世に知らしめようとする為にアメリカに密航しようとストーリーは終始緊迫感が漂う、どっしりとした作品。
ロマンスドールでは何処か頼りなさ気でも妻を純粋に愛する主人公を演じた高橋一生さんが今作では成功した若き貿易商の優作を演じてますが、落ち着いた雰囲気に加え頼れる大人の男の雰囲気を醸し出しているのは様々な作品でいろんな役柄を演じてきた賜物。緩急の付いた演技は観ていても安心感があります。
でも、蒼井優さんの醸し出す雰囲気はそれよりも一枚も二枚も上手。
昭和初期の恵まれた令嬢婦人を演じられてますがもうピッタリ。蒼井優さんの話し方も何処か令嬢っぽいし、品の在る演技と存在感は個人的にはピカイチかなと思います。
…この人があの「南海キャンディーズ」の山ちゃんの嫁か…と思うと、未だになんか納得が出来ませんw
観応えある作品ですが、個人的な難点を言えば、スパイの容疑を掛けられた夫を救うため、坂東龍汰さん演じる甥の文雄に罪を全て被せ、夫の行動を「売国奴」の所業と言いきった筈の聡子が急に夫の行動を支持する様になった部分の描き方が薄いと言うか、解り難い。
聡子が夫の優作の考えを急に理解する所が丹念に描かれていない為、聡子はなにか企んでいるのでは?と終始勘繰ってしまった。
そんなドキドキにクライマックスはいろんな結末を考え、その中の選択肢で「こういうラストもあるかも…」となんとなく思っていても、それを目にするとやっぱりビックリ。
だけど、その結末で言うと些かタイトルと噛み合ってない感じがしなくもないんですよね。
タイトルの意味を深読みするといろんな事を思い巡らせたんですが、意外とあっさりな感じがしなくもないんですよね。
聡子の軍部で優作の真意を知った時の「お見事!」はちょっと演劇チック。
舞台で観ると栄える台詞なのかもなんですが、映画として観た時に聞くと少し違和感が無い訳でも無いんですよね。
その後、気の触れた患者として入院している聡子の没落を観ると「ふりをしているだけ」と分かっても何処かやりきれない虚しさを感じます。
同時に優作の聡子への愛は果たして本当だったのか?と考えます。
自身の信じる正義を貫く為、聡子を裏切り、同時に売ってしまう。軍に聡子に思いを寄せる泰治が居るとしても、聡子の安全は完全では無い。
ドラマ版を見ているとその辺りの説明も補完されているのかもなんですが、映画を観ている限りでは、聡子する裏切ってしまう優作の愛情は何処にあったのだろうか?と言うのが些か難しいと言うか解り難い。
最初から国にも聡子にも愛情が無かったと言う風に解釈すれば良いのかもなんですが、優作が終始、謎の人物に映ります。
でも、これぐらいのミステリアスの方が個人的には良いかな。
黒沢清監督はいろんな作品を撮ってて、結構好きな作品もありますが、個人的に「クリーピー 偽りの隣人」の前科があるのですがw、この作品は十分に楽しめました♪
日本の戦前に行った様々な所業の数々はいろんな形で明らかになっていますが、劇中で描かれた細菌兵器の研究は満州で実際あった「731部隊」の事を指しているかと思います。
日本が過去に行った行為を今更悔い改めよとは言いませんが、国の行いを憂うが為に裏切り行為を行った者。そしてその犠牲になった人。国を正義を信じた為に盲目に人を裁いた者。
それぞれが悲劇的であった事は間違いなく、その犠牲の上で成り立っている今日である事は間違いないかと思います。
そんな事を改めてではありますが、じっくりと魅せてくれる作品です。
久々に骨太の邦画作品がなんか嬉しい。
未観賞の方でご興味がありましたら是非是非♪