「どこにもカテゴライズできない、街の神話とでも呼びたくなる秀作」ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
どこにもカテゴライズできない、街の神話とでも呼びたくなる秀作
なんと大らかで、しなやかな語り口なのだろうか。サンフランシスコという街を一つのモチーフとしながら、そこに建つ尖塔が印象的な一軒家に焦点を当て、さらに「この建物はかつて祖父が一人で築き上げたもの」と主張するアフリカン・アメリカン青年の決意と行動に本作はじっくりと寄り添う。ともすれば、大風呂敷を広げすぎて個々の要素が空回りしてしまいそうな危うさを秘めながらも、決してそうはならない。ここが新鋭ジョー・タルボットの優れた部分。とりわけ冒頭、スケートボードでゆっくりと街を滑走するオープニングがあまりに素晴らしく、印象深く映し出される「街並み」や「人々の顔」が、本作の時に神々しくも感じられるほどのムードを決定付けるのだ。静かにこみ上げる街への愛情。そして仲間、家族、コミュニティ、自分たちの歩んできた歴史へ寄せる思い。そこには街の息遣いとともに、どこにもカテゴライズできない唯一無二の物語が刻まれていた。
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