「神無の映画」神在月のこども 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
神無の映画
翌年の縁結びの話し合いをする為、年に一度、全国の神々が出雲に集る。
それが旧暦の十月で、全国から神様たちが不在する事から、“神無月”。
有名な旧暦十月の由来。
尚、全国から神々が集うので、出雲では旧暦十月を“神在月”と云う。
その伝承を題材にしたファンタジー・アニメ。
日本神話や神々に纏わる話は結構好き。詳しくはないが、一物語として知れば知るほど興味深く、奥深い。
『日本誕生』はまあまあだけど、『わんぱく王子の大蛇退治』『千と千尋の神隠し』など、神話や神々を題材にした作品には名作も多い。
一人の少女が神々の世界に足を踏み入れる…。『千と千尋の神隠し』を彷彿。
が、残念ながら、本作は“神映画”にはなれなかった。
う~ん、何て言うか…、
もうちょっと格調高く、神秘的な魅力の作品かと思ったら、子供向けとまでは言わないが、当たり障りのない作風。
ターゲット層も曖昧で、子供には微妙だし、大人には退屈。
ならばヘンに小難しくはなく、見易いのでは?…とも思うが、話に面白味や魅力を感じず、全てがステレオタイプ。
母親を亡くした少女カンナの喪失からの再生、母親への思い…。
課せられた使命、ある目的…。
旅に同行するサブキャラ…。
試練と脅威…。
母親と走る事が好きで、母親を亡くしてから走る事を避けるようになってしまったが、再び走れるか…?
題材や要素はいいのに、それらを活かし切れてない典型。
出雲で行われる神々の縁結び会議に振る舞われる“馳走(=“ご馳走”の由来)”を走って集めた事から“走る神”と言われた韋駄天。
実は韋駄天の末裔であった母。
…って事は、カンナも神様の末裔。何か唐突で非現実的な印象。こういう場合、主人公は平凡なのがいいのに…。
神の使いの白うさぎに誘われ、馳走を集めて出雲に届ける旅に出る。
神話に沿った設定なのはいいが、無理矢理宛がったようで、主人公の動機や物語の立ち上がりとしてはいまいちピンと来ず。カンナでなくとも、何故自分がそんな事しなきゃならないの?…と確かに思う。
そんなカンナに感情移入必至…にならない所も難点。
出雲に行けば母に再会出来る…。白うさぎのそそのかしとカンナの思い込みで、惹き付けられる動機を感じない。
それでも母を一途に思う子の愛を謳うが、結構性格はわがまま。言動も理解出来ない。
母親を亡くした少女の不安定な心を描いたつもりが、巧みとは言えず、却って共感し難い主人公像になってしまい、裏目に出てしまった。
旅の仲間は、“因幡の白兎”の子孫と、代々韋駄天をライバル視する鬼の少年。
彼らも旅や物語を盛り上げるサブキャラとは言えず。典型的な位置付けの域を出ていない。
馳走集めも何だかRPGゲーム感覚で、有り難みを感じない。
馳走を下さる各神様たちの描写も作品の魅力の筈が、描き不足。唯一良かったのは、龍神様くらい。
出雲の大国主命の声に、“神”谷明。
龍神様や恵比寿様など神様たちの声に『名探偵コナン』声優陣が多く、本作製作者にとって『コナン』は神アニメ?…なんておバカにぼんやり思ったり。
鬼少年・夜叉の声は“ハク”ではないか! ここでも“神”繋がり。
ヘンな面白味があったのはそれくらい。
画も特別美しいとは言えず、素朴でもなく、中途半端。雑や粗さを感じてしまった。
道中、遂に使命や走る事を投げ出してしまうカンナだったが…、その後の展開は予想通り。
予定調和に向かって全力疾走。
…いや、全力疾走でもない。
感動やカタルシスも無いだらだらとした走り。
何か一つでもいい所を探さないと罰が当たりそうだが、書いてても見つからず。
決して駄作とは言わないが、あまりにも魅力薄の作品。
軽々しく作ってしまったから、作品に神様の罰が当たった…?