「彼らの「これから」に思い馳せてしまう。」ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから ゆちこさんの映画レビュー(感想・評価)
彼らの「これから」に思い馳せてしまう。
学生時代にこの作品と出会っていたら、どんなに自分を豊かにしてくれただろう。
愛とは何か?に触れる、心の豊かさを手にする方法、ジェンダーイシューへの理解、古典的作品への関心、映画にももっと早く夢中になれただろうなとか、いくつもの問いかけがあることも含め、最高のエンターテイメントでした。
中国人として差別を受ける傍ら、秀才故にレポート代筆でお金を稼ぐエリーは、妻を亡くして塞ぎ込む父との2人暮らし。冴えないアメフトの補欠選手ポールから依頼されたのは、自分も好意を寄せる学校のマドンナアスターへ贈るラブレターの代筆だった。
引用される古典文学や哲学者の言葉が、さりげなく物語に踏襲されていく。嗜好が似ているエリーとアスターは理解し合えないはずがなかった。手紙やメールを通じたやりとりは楽しそうなほど、悲しいくらいに切なくて、アスターはポールだと信じてどんどん2人は距離を縮めていく。そしてここはカトリック信仰者の多い小さな田舎町。同性愛者だと言えるはずもない。
番狂せ的要素はポールが気持ちいい程に“いい奴”だったこと。差別を受けるアリーに代わって言い返したり、冴えないけどスポーツマンな彼は根性だけはあった。アスターが好きな作品をエリーと学ぶことに明け暮れる様子は、真っ直ぐで兎に角憎めない。いつしか友人がいないエリーにとって良き理解者であり親友となったことは贈り物のような誤算だった。
ポールの代わりにエリーがアスターの魅力をつらつら話す一連のシーンは、この作品の魅力が凝縮されている。エリーの立場と心情を繊細に描いたこのシーンはきっとずっと私の心に残ると思う。台詞回しもカットの切り取り方も終始美しくて、映像作品を楽しむ面白さにも気づかせてくれる。
ラストも言い切れるくらい最高です。「出口なし」と感じていた3人が、愛、恋、人生、それぞれに答えを導き出して一歩踏み出す。タイトルどおり面白いのはこれから。一旦終わりを迎えた物語によって、本当の物語がスタートする彼らのこれからが知りたくなる。どうしたらこの3人が揃ってしあわせでいられるのかを考えてしまうほど、多面的に描かれる彼らが愛おしくなります。
これは誰かが何かを手に入れる話ではないのです。愛とは何かを描いている点でラブストーリーなのかもしれませんが、ロマンスには焦点を当てず、思いがけず縁を持った3人がお互いに影響し合い、人生を切り開くための自分らしさを探す物語。人種、ジェンダー、貧困問題を描いてます、という顔つきではないまとめ方にも誠実さを感じて大好きな一本になりました。パパとポールはどんな形で友情を築くんだろう。続編が観たいです!