「SF的な設定をオーソドックスな映像表現に落とし込んだ好作」恋する寄生虫 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
SF的な設定をオーソドックスな映像表現に落とし込んだ好作
アリに寄生して行動を支配する菌の存在はそれなりに知られているが、本作の設定はそうした自然界の実例にヒントを得たのだろう。“恋する寄生虫”とは、寄生虫が恋をするのではなくて、人に寄生して、宿主に恋をさせる虫のこと。SF的な設定の世界観であり、実際に寄生虫の造形や動きを映像化してもいる(キャメロン監督の「アバター」や、アシュレイ・ジャッド主演の「バグ」を想起させる)のだが、あくまでも部分的に挿入されるにとどまっている。CMやMVを多数手がけてきた柿本ケンサク監督なので、もっと“とがった”映像表現でSF要素を強調することもできたはずだが、全体としては奇をてらうことなく、オーソドックスな画作りに徹していることに好感を持った。
小松菜奈が視線恐怖症の高校生役で、舞台挨拶で自虐的なコメントもしていたようだが、それほど違和感を覚えないのは、おそらく「渇き。」(2014)で映画ファンに知られるようになってからルックスがあまり変わっていないことも要因だろう。
本作にとってタイミング的に不運だったのは、極度の潔癖症ゆえ四六時中マスクを着用しているという林遣都が演じる青年の設定が、このコロナ禍でマスク顔が“ノーマル”になってしまったために、作り手が意図したであろう極端さを強調する効果が半減してしまった点。あと何年後かに、マスクなしで外出できる日常が戻ってから本作を見直したら、また印象が違うのかもしれない。
「若者の恋愛物」というカテゴリーでくくると、欠落感を抱えた男女が出会い、孤独を埋めるかのように互いに惹かれあうという筋は、SF的設定をのぞけば目新しさはあまりないものの、映像と音楽を丁寧に組み合わせて構築された世界に浸ることができる99分だ。