劇場公開日 2021年8月20日

「映画的サプライズも欲しかったが、きちんと完結させてくれた関係者にThank you!!な一編」劇場版 きんいろモザイク Thank you!! ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0映画的サプライズも欲しかったが、きちんと完結させてくれた関係者にThank you!!な一編

2021年9月10日
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鑑賞方法:映画館

2013年に1期シリーズから始まった日常系作品の一つで、個人的にお気に入りの作品。

京都アニメーションの名作でもある山田尚子監督の『けいおん!』と同じ男性を極力排除した女子高生の日常世界だが、『けいおん!』ほど日常のリアルリズムは、抑えてあり全体的に明るい彩色とポップなノリの日常コメディに仕上がって、キャラクターも若干記号的だが、これが監督デビュー作でもあるアニメーター出身の天衝監督によって演出やビジュアルに工夫があり、タダの美少女動物園アニメに陥っていない印象で、天衝監督が副監督に重きを与えて製作された2015年の2期シリーズにも美点は受け継がれいる。

特に1期第1話の冒頭から監督の力の入ったビジュアルと素晴らしいオープニングタイトルや主人公の忍とアリスの出会いと友情と別れを、短時間で丁寧に描き軽い気持ちで観ていた時にその卓越なセンスに引き込まれていった。(原作マンガでは4コマで処理された部分を原作者の協力を元に膨らました脚色も見事)
全体のサントラ出来映えも良質だが、第二話から本格的に使われたエンディングアニメも既存曲のカバーでもある「Your Voice」にシンクロさせてキャラクターが生き生きと歌うアニメーションも出色だった。

今回の完結編での一番の懸念はシリーズの総括監督の天衝氏が不在な点であり、公開から少し遅れた拝見したが、全体的に悪く無いが懸念した点が浮き彫りなったと思う。

物語の構成は、冒頭と最後を円環にしつつ、初見さんにも分かる大まかな説明がキャラクター紹介と共に入っており前半の10分ほどで映画を見慣れている人には、分かる構成になっているのは良心的でテンポもギャグもテレビと変わらず快調で、4コマ漫画ベースで学生生活最後に相応しいイベントでもある修学旅行と進路に卒業を上手くまとめてぶつ切り感も少ない。

キャラクターもそれなりに成長していて特に主人公的ポジションの忍は、多少動機に不純な印象もあるが作中で一番変わっていく。

気になるのは、最初からラストに至るまで、別れのダメージや切なさはなく進み、全体にほんわかと締め括られていくのも悪くないと思うが、それによって若干展開にメリハリが弱い。

アニメの作画もキャラクターも背景も音楽もテレビに準拠したクオリティーでアラは無いが、動きや芝居の面で平坦な印象。繰り返し烏丸先生が踊る場面などは紙芝居?かと思う稚拙さ(テレビ版では凝った作画や光る演出があった)

映画だからスケールや大事件が起こらなくても良いが、無難にまとめてられており、サプライズが欲しかった。上記の点が天衝監督が抜けた穴だと思う。

例えは大林宣彦版の『時をかける少女』の様な、ミュージカル調なカーテンコールを組み込んであると良かったと思います。

良かった点は、ムダにキャラクターを増やさずに関係性の維持と見せ場それぞれ満遍なく配分してまとめた脚本とお風呂シーンなどで本作には不要なエロ要素足さなかった節度ある演出などは、作品とキャラクターを大切にしていて好感が持てる。
個人的にはテレビでは殆ど出番の無かった忍の母親との微笑ましいやりとりを、年齢を重ね落ち着いた女性として演じた高橋美佳子の上手さが収穫だった。(エクセルガールで飛び道具的な扱いの頃から知っている声優なのでしみじみ)

エンドクレジットでの中塚武氏とRhodanthe*による曲と原作者の原結衣先生のイラストで締めも良かった。
欲を言えば、映画ならではの見せ方や演出も欲しかったけど、完結にThank you

ミラーズ