「保守にもリベラルにも中指を突き立てる壮絶な皮肉を塗り込めた爽快なトラジコメディ」ザ・ハント よねさんの映画レビュー(感想・評価)
保守にもリベラルにも中指を突き立てる壮絶な皮肉を塗り込めた爽快なトラジコメディ
猿轡を咬まされた白人の女性が目覚めるとそこは森の中。そこにいたのはお互い全く面識のない11人。そこがどこかも分からない彼らの前にあるのは大きな木箱。恐る恐る開けてみるとそこに入っていたのは1匹の豚とたくさんの銃器とナイフ。そこに鳴り響く銃声。彼らは自分たちが置かれた状況を掴めないまま武器を手にその場を離れるが、彼らを追う何者かに1人また1人と餌食になっていく。
要するに“人間狩り“映画で、古くは『裸のジャングル』に始まり『ハード・ターゲット』や『アポカリプト』等枚挙にいとまがないジャンルですが、本作は現代風刺を盛大に盛り込んだどエゲツないトラジコメディにした点が斬新。冒頭早々にブチ込まれる下ネタに始まり善良な人か悪党かも判らない人達が次々に壮絶な死を遂げるのも全部ギャグ。一体ここはどこで何の目的でこんな目に遭っているのかというシャマラン監督が好きそうな仕掛けに対するオチが元も子もなく、耳がキーンと鳴るくらいの理不尽が横たわっています。風刺の内容は保守もリベラルもレイシストも人権擁護派もくさす上を向いて唾するかのような凶暴なものですが、木箱に入っていた豚には何の意味があるのか、謎の男女の標的となりながらも卓越したサバイバルスキルで生き延びる主人公クリスタルがなぜ“スノーボール”と呼ばれているのかといった辺りにアカデミックな要素もチラつかせていて、約90分の短い尺ながら分厚いドラマになっています。死屍累々の後の訪れるアナーキーな爽快感はイリヤ・ナイシュラー監督の傑作『ハードコア』に感じたテイストと酷似、ヒロインのベティ・ギルピンの凛とした佇まいがくっきりとした残像を残す傑作です。