「君と僕のなりたい自分になりたい。世界を変えたい」青くて痛くて脆い 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
君と僕のなりたい自分になりたい。世界を変えたい
近年の青春映画の名篇となった2017年の『君の膵臓をたべたい』。
その原作者、住野よるの同名小説を映画化。
あの感動をもう一度…と思ったら!
人とのコミュニケーションに距離を取ってしまう大学一年生の楓。
ある時、同じ一年の秋好と出会う。
楓は人付き合いが苦手で周囲から孤立していたが、秋好もまたKYな発言で周囲から浮いていた。
関わりたくなかったのだが、彼女の自由奔放な性格に押され、サークルを結成/入会させられてしまう…!
何だか見てたら某アニメが頭をよぎった。ただの人間には興味ありません!…ってやつ。
あちらは“SOS団”だったが、こちらは“モアイ”。
その活動内容は…
世界を変える。
なりたい自分になる。
青臭くて、理想に過ぎなくて、大それた夢に過ぎないかもしれないけど、二人は出来る事や小さな事からこつこつと、活動に勤しんでいた。
それから数年後…
モアイは悪質な就活サークルと化し、秋好は“居なくなっていた”。
楓は自分から大切な居場所と人物を奪ったモアイを潰そうと復讐を企てる…。
繊細な青春ストーリーと思いきや、まさかの復讐サスペンス仕立て。
出会いや爽やかな青春映画風の過去の思い出と、復讐を開始するサスペンスチックな現在が交錯して展開。
それがなかなかトリッキーな仕掛けでもあり、飽きずに引き込まれた。
勿論青春描写はリリカルなのだが、復讐サスペンスはスリリング。言わばダークな青春サスペンス。
あの感動の“キミスイ”から一転。住野よるの降り幅に驚く。
青春ストーリーと思ったら、復讐サスペンス。
実は仕掛けはこれだけじゃなかった。
ネタバレチェックを付けるので言ってしまうが…、
あるワンシーンで「ん? ひょっとして…?」と気になり、当たった。(楓が柄本祐演じる脇坂と再会した時、窓の外から駆け寄るある人物)
やはりそうだった。
秋好。
彼女は存命。何も死んでなどいなかった。
“居なくなった”というのは、楓が知る秋好はもう居ないという事。
青臭くて理想的で大それた夢に向かって一直線だった秋好はもう居ない。そんな秋好を楓は…。
今もモアイの代表を務める秋好だが、変わってしまった。
そんな秋好を許せない。
そんなモアイを許せない。
楓の復讐というのは、秋好の為ではなく、モアイと秋好共々。
自分を切り捨てた居場所と彼女に対しーーー。
吉沢亮と杉咲花の初共演&W主演で、若者の苦悩や葛藤を体現。
過去と現在で印象が異なる演じ分けもお見事。
杉咲は言うまでもないが、吉沢も『キングダム』の熱演から着実に実力を付け、本作ではまた新たな役に挑んでいる。
終盤で袂を分けた二人が久々に顔を合わせたシーン。吉沢vs杉咲の演技バトルは白熱!
その他揃った若手キャストでは、松本穂香がクセ者キャラ。
楓の復讐方法は、モアイのスキャンダルをSNSに上げ、炎上させるという現代社会ならではのやり方。
モアイには悪い噂が付いて回るが、本気で就活しようとする人たちもいる。
歪んでいるのはどちらか…?
そして見ていく内に、楓の本当の復讐理由が明らかになる。
言うまでもない。秋好への恋心。
楓は秋好に惹かれていたのだが、秋好は別の先輩と交際を。
復讐は単なる嫉妬。
楓は否定するが…、
それを知り、秋好は激しく嫌悪する。
「気持ち悪い!」
秋好は何も変わっていなかった。
今も青臭くて理想的で大それた夢に向かって一直線。
しかし、その為には現実的な方法も致し方ない。でも決して違法や悪質な活動には携わってはいない。
今も本気で信じている。
世界を変える。なりたい自分になる。
変わってしまったのは、楓の方だった。
そして楓は、取り返しの付かない事を。
二人で作った“世界”を、壊してしまう…。
人間というのは愚かでバカでありがち。失って初めて気付く。
こんな自分になりたくなかった。
“それ”が自分にとってどんなに大切だったか。
世界を変える。
なりたい自分になる。
全て彼女が教えてくれた。
今からでも世界を変えられるだろうか。
もう遅いだろうか。
今からでもなりたい自分になれるだろうか。
もう遅いだろうか。
なれなかったなりたい自分のシーンが胸を打つ。
解散したモアイであったが、また新たに立ち上がった。
ラスト、楓はある人物を見かけ、がむしゃらに駆け寄る。
もう一度。
どんなに傷付いても。
青くても。
痛くても。
脆くても。
リリカルな青春ストーリー→ダークな復讐サスペンス→そして感動で締め括り。
いい意味で予想と期待を裏切られた!
お返事ありがとうございますm(__)m
あのオリジナルのシーンは映画(映像)でしか表現出来ないと思えましたし、ラストもモアイが復活しているという原作にはなかったシーンからの楓が追いかける(ここは原作通り)という流れが本当に 良かったです!原作を超えた…と思いました。😊
近代さん
流れるような文章に感動が蘇って来るレビューですね!やはり、楓は秋好に恋していたんですよね。原作では 楓はあくまでも否定しているので…モヤモヤしましたが…映画は楓の真の目的は嫉妬による復讐でしたね。その為に楓は大切なモノを壊してしまったという…愚かさと切なさ。でも…オリジナルの「なりたかった自分」を想うシーンが本当に良かったと思います!
共感をありがとうございますm(__)m