「鳥肌の連続」空白 ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
鳥肌の連続
吉田恵輔監督作品を劇場で鑑賞するのは初めてです。「ヒメアノ〜ル」や「BLUE」は配信などで鑑賞しましたが、それぞれ衝撃的で、それぞれの作品の素晴らしさに感服しました。
そして今作。劇場の出入りも7割方埋まっていて一安心。
一言で言ってしまえば、休むことなく衝撃が襲ってくるという感じでした。序盤の交通事故のシーン、予告では1台の車に轢かれたように見えたのですが、実際はそこからトラックの追撃があるという衝撃的なスタートでした。娘の頭は潰れ、眼球ははみ出し、骨は何本も飛び出し、遺体は損傷が激しく本人確認ができないほどというとんでもない状態で、父親と娘は対面します。そこまで娘に無関心だった父親がここで心の底から泣き崩れます。あんなに普段楽しそうな古田新太さんのあんな表情を見てしまってはこちらも絶句です。
今作では、登場人物全員が感情を剥き出しにしているので、妙に生々しく、他人事には思えない作品です。古田新太さんの毒親っぷりはとんでもなく、怒鳴るシーン怒鳴るシーンに毎回ビクついてしまいました。松坂桃李さん演じるスーパーの店長はどこか頼りないが、終盤に秘めたる狂気が一瞬解放されて、おどろおどろしかったです。寺島しのぶさん演じる店員は、とっても良い人ではあるのだけれど、人の良さが限界突破しており、善意の押し付けをしてきて、とても気持ちが悪いです。当の本人は親切のつもりでやっているのもタチが悪いです。そんな人も何かを失った瞬間に感情を爆発させるのもひとつの狂気でした。なだめからのキスには驚きましたが笑。藤原季節さん演じる若手漁師も、不真面目そうに見えて、しっかりしていて、暴走する充を徐々に慕うようになり、充の心の支えのひとつになっているのも良いなと思いました。マスコミを退かせる姿には漢気を感じました。
今作はマスコミがとにかく酷く、偏向報道なんのそのな勢いで、この事件に絡む人々全てを悪に仕立てていきます。店長のインタビューの中での小さな小言のみを切り取って報道するという、報道機関としてあってはならないレベルの偏向報道を平気でする姿は、コロナウィルス関連で不安を煽る現在のマスコミに似てる気がしました。他にもニュース映像を切り取ってYouTubeに上げるなど、これも現実でよく見るものだなと思いました。
追い詰める父と逃げる店長の攻防は、ひたすらに緊張が溢れており、交通事故現場の再現で、店長が車道に向かい飛び出していこうとする姿に恐怖を覚えましたし、車の運転手に向かって「ゴチャゴチャ言ってるとぶち殺すぞ」という誰をも黙らせる暴言を浴びせた父にも恐怖です。
事件の解決へと近づいていくたびに、虚しい気持ちでいっぱいになるのですが、最後に娘の書き残した絵、閉店したスーパーの常連からの感謝の言葉で、追う側と追われる側の両者が少しだけ救われ物語は終わりました。
見終わったあとは放心状態でした。なぜこんなにパワーのある作品なんだろうか。なぜこんなに辛い物語なのに面白いのか。なぜフィクションなのに他人事に思えないのか。色々と考えることは山積みでした。正直レビューでは言葉に書き表せないものばかりです。トンデモ傑作です。ぜひ劇場へ。
鑑賞日 9/23
鑑賞時間 13:50〜15:50
座席 H-12