「歴史は人々の思いでできている」マルモイ ことばあつめ マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)
歴史は人々の思いでできている
1910年に韓国が併合され、
1919年に三・一独立運動が起こった。
1939年には創氏改名が実施され、韓国の8割の人が日本式の苗字を届け出た。
(ちなみに、この映画は1939年が舞台だと思われます。創氏改名が登場しますから)
と、教科書で、こんな事実を習ったはずですが、
歴史には、詳細な事実(人々が日常で体験したこと)は、記述されません。
ましてや、そこに生きていた人々の気持ちは、なかったかのごとくです。
「ひとりの百歩より、百人の一歩が大切」
代表と呼ばれていたリュ・ジョンファンが、子供のころ、心に刻んだ父親の言葉です。
時は過ぎ、その父親は中学校の校長として、皇民化の教育に加担している。
父親を責める息子に、父親は言います。「昔は独立できると思っていた」
「昔」とはもしかしたら、三・一独立運動のころのことでしょうか。
しかし、20年の月日は父親を変えた。
同じ日本人になる、という巧みな、
しかし、現実には差別的な扱いのもと、
牙を抜かれていく同朋たちの中での20年。
片や、外国留学から帰ってきて、20年前の思いそのままの息子。
父親が現実と折り合ったからこそ、得られた収入があり
その資金が支えた外国留学が、現実と抗う息子を育てたという皮肉です。
元スリのキム・パンスには、息子との間に逆パターンの分断があります。
生まれた時から併合下にあり
あたりまえのように日本人に殴られる環境下で育った息子。
アウトローの父親とは、気持ちが通じるはずもありません。
共通のアイデンティティーを失うということは
親子の間にさえも分断を生み出すということです。
だからこそ、アイデンティティーの源泉のひとつである言葉に
命をかけた人々が存在した、ということなのです。
『皇民化政策』『創氏改名』という単語に、
命を吹き込んでくれたこの映画に感謝です。