「あなたの傷に立ち会いたかった。痛くてモラトリアムな時間」君は永遠にそいつらより若い KaMiさんの映画レビュー(感想・評価)
あなたの傷に立ち会いたかった。痛くてモラトリアムな時間
一見モラトリアムな大学生活だからこそ、バイトや飲み会のなかで、何気ない一言が互いの傷をえぐってしまう。就職や恋愛という人生の一大事に向き合おうとすれば、生い立ちの時期の傷が大きく立ちふさがる。それぞれのトラウマに向き合い、少しずつ成長する女子ふたりを描く映画だ。
児童福祉司への就職が決まっている大学4年生のホリガイ(佐久間由衣)は、自分には何かが足りないという劣等感を抱えている。それが男性経験のなさに由来することは自他ともに認めているが、さかのぼれば小学生時代の男子との喧嘩で「敗者」を烙印づけられている。
そんなホリガイは、性暴力の被害者であり耳の傷を隠して生きているイノギ(奈緒)と知り合う。バイト、飲み会、カラオケ、鍋、テレビゲーム――そんなゆるい時間のあと、お約束のように深刻な話題に踏み込んでしまう。大学時代を思い出してほろ苦い。
最初はホリガイが、それに続くようにイノギが傷を打ち明け、「私もその場にいてあげたかった」と伝え合う。
思うに、被害経験の本当の苦しさは「自分で自分を守ってやれなかった」ことにあるのだろう。絶対的に相手が悪いのに、「何もできなかった自分」に対して抱えてしまう罪悪感。タイトルにもあるように、「悪かったのではない、若かったのだ(そいつらの方が先に死ぬよ)」という寄り添い方を、この映画は選んでいる。
ホリガイ自身が「自分を守れなかった」悔いは、まだ誰かの苦しみに気づけていないのではという焦燥感となってホリガイを突き動かす。
冒頭に出てきた赤い自転車はイノギが被害に遭ったとき乗っていたもので、ホリガイが直接見たはずはない。しかしラストで児童福祉司になったホリガイは、訪問先の家庭で同じように倒れた自転車を立て直す。良くも悪くも、妄想じみた直観が原動力だ。
傷を抱えてしまったら、勘違いでも、遅れてでもいい、誰かのために立ち会って、立て直せばいい。そんな希望を感じさせる映画だった。
行動力があって大胆なのに、心の奥底に不全感を抱えたキャラクターが佐久間由衣さんにぴったり。奈緒さんは翌年の「マイ・ブロークン・マリコ」と似た役柄を、さらにナチュラルに演じていた。
この映画、公開から4年経っているのに「愛されなくても別に」と一緒に上映してくれた映画館に拍手。同じように、傷を抱えた大学生の寄り添いを見たい映画だから。「ネムルバカ」のファンにも見ていただきたい。3作の中で一番重いけれど。
