劇場公開日 2021年3月26日

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「男性です。 しょせん一緒には生きられない存在として、男性性と女性性を語る古来からの哲学のお話」水を抱く女 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0男性です。 しょせん一緒には生きられない存在として、男性性と女性性を語る古来からの哲学のお話

2021年7月4日
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「渚」という言葉が好きです。
「陸の生き物と海の生き物が出会う場所を指すのだ」とラジオで聞いて、うん、なるほどと思った。
「渚というこの美しい形容は日本独自のものだ」とも、ラジオの識者は語っていました。

ウンディーネ(オンディーヌ)は嫉妬する女の化身。男の相手がたとえ女性であろうとなかろうと、仕事や趣味や信念など、“私よりも優先され大切にされている何かが存在すること”を、オンディーヌは認めたくない。

~ 七夕は年に一度の逢瀬ゆえ
牽牛織女に悦びのあり ~

もうすぐ7月7日ですね、
織姫と彦星は銀河の水辺でデートをします。
牽牛くんが生業の牛の群れをほったらかしにして自分に会いに来てくれるのでなければ、愛は終わりです。
織姫嬢は、彼氏が何カラットのプレゼントをくれたかという有形の贈り物だけでなく、「私のためにどれだけのものを捨ててくれたか」という証拠をも求める。
重い女。

ならば、オンディーヌって男(の人生)を生かしたいのだろうか?殺したいのだろうか?
強く抱き絞め過ぎると、腕中に抱いていたものは水と化し、相手を死なせてしまうんだけれどなぁ。

昨今、ジェンダーは実に多様になった。
陸で肺呼吸をする者。水中で えら呼吸する者。渚で“両生類”として男的な生き方と女的生き方のはざまを自由に往き来できる者。新しい人種たちが、ようやく公然と性自認のオリジナリティを発現できる世の中になってきているから、
そういう世相に鑑みれば水際を境に争う男女という本作品のテーマも、波打ち際の境界線が徐々にぼやけて廃れてしまう前の、滑り込みの制作に相成ったかもしれない。

この映画は、男性監督が女性を撮っている。そのことによって、男女の差異とそれぞれが生きる世界の隔絶性は、より明確に言葉化が成ったといえるだろう。
女性監督が(女子会の 有る有る系おしゃべり形式ではなく)男性観客に向かって「男という性」と「女自らの性」を納得させうるストーリーで完成させたなら、是非とも観たいと思う。

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【まいど、きりんの自分語り】
四季を問わず、屋外での仕事の多い僕。
マイナス10℃でガタガタ震えていると同僚から「きりんくん、別れた奥さんが君の藁人形をザブーッ、ザブーッと氷水に沈めているのさw」と言われ、
灼熱の猛暑日には「君の藁人形を奥さんが火に炙っているんだね」と笑われる。
そうかもしれないとも思う(笑)

別れて5年後に、ずいぶん幸せな再婚を掴んだ彼女からお手紙が来た。
酷く分厚い封書が届いたのだが一通は開封しもう一通は未開封のままうっちゃってある。開けたほうは実に気が滅入る内容で、元亭主を氷水の中に引きずり込もうという楽しくない意図を感じたものだから。
彼女は水瓶座である。

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【 渚 】
僕にとっては結局結論として、男と女は住むべき場所が違う。二者は共棲することあたわずの関係だと思う。
・男は空気と日光を、
・女は水中溶存酸素と湖底遺跡へのサインを求める。
何か同じ世界で生きられるような“錯覚”が、女にはパートナーを永久にその手中から失わせる結末を招き、男は男で渚から深みに転落し、溺死を自らに招来するのではないだろうか。

だから“渚理論”は、それぞれが生きて、お互いを求めるための出逢いの場であると同時に、踵を返しての男の陸(おか)と女の水(うみ)にそれぞれ別れて帰っていくためのサヨナラの喫水線になるべきだと。
つまり渚の逢瀬は一時的なものと割りきるべきなんだと思う。

【もっと男女は友だち関係でいるべき】
自分が生きるために相手を殺すとか、
相手を生かす方法が自分が死ぬことだとか、こんなのはやめてもらいたいんです。

「水に還ったウンディーネの姿」を、彼女の意志と見るか男性側からの願望=女はこうあるべきだという わきまえの強要=と見るか、これは議論の別れるところかも。女への処刑と見えなくもないから。

真理契機をもって語られる神話「オルフェウスとエウリディーチェ」も、アンデルセンの童話「人魚姫」も、その結末は「男女は同じ世界には生きられない」という悲劇の運命を語る。

(神話も童話も作者が男であることは忘れずに念頭に置きつつも)、
棲息域を超えて一緒に生きることの難儀さを、我々人類に説諭するギリシャ神話もこの映画も、誰しもが思いあたる寓話となっている。

それにしてもイタリア映画と違い、ドイツ作品は曇り空だなぁ。時代遅れとのそしりを受けてでも、じっくりと過去と歴史を咀嚼する国民性なのだと見た。ベルリンの壁が崩壊して緩衝地帯の「渚」を消失させたドイツ人の、統一の混乱も、少し想った。

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【追記】
①求愛と種付けの季節だけ同衾する=つがいを作らない!=ヒトに極めて近い種属オランウータンについては、ご興味のあるかたは
『孤独を愛する ふしぎな動物―「オランウータン」のすべてを研究者に聞いた』
で検索してください。
森の哲学者と言われています。哲学なき者はオランウータンに学べ(笑)

②あと現代の「人魚姫」伝説として韓流ドラマ「青い海の伝説」もオススメです。
男の側も命がけで海に潜って恋人シムチョンを救いますから、男勝手で女の側だけに入嫁や変容を求める因習物とはちょっと違う。

きりん
kossyさんのコメント
2022年2月20日

きりんさん、お気遣いありがとうございます。
今年の冬はせいぜい-1度くらいで、たいしたことなさそうです。
ずっと休んでますが・・・

kossy
きりんさんのコメント
2021年9月5日

DVDで再度鑑賞。
マルチェッロのオーボエ協奏曲をバッハが鍵盤曲に編曲したBWV974から有名なアダージョ。静謐にして甘美。Vikingur Olafssonのピアノ。この曲を聴くとこの映画を思い出すだろうなぁ

きりん
talismanさんのコメント
2021年7月24日

いかにもドイツの映画ですが、ずいぶんとお洒落な方だと思います!

talisman
talismanさんのコメント
2021年7月24日

水の中で生きることができたらどんなに嬉しいかと思います。暫く行ってないけれど、南の島でチャプチャプとシュノーケリングしながらひとりで笑う時が一番幸せです。怖いですかね?

talisman
talismanさんのコメント
2021年7月24日

この映画、好きです!

talisman
pipiさんのコメント
2021年7月6日

ドイツ、育つ作物の限られる寒冷の地は常に生存の危険に晒されて、厳格で統制の取れた気質を育むのでしょうね。
札幌生まれなので、将来は寒冷なドイツに永住したいなぁなどと考えていましたが、年齢が上がるにつれて北国は勘弁、暖かいイタリアか沖縄辺りの方がいいかも?と思うようになりましたw 放っといてもなんらかの実が勝手に実るような気候では陽気にもなろうというものですねw

pipi
pipiさんのコメント
2021年7月6日

思いっきりぶっ、、、ぶっ叩かれ!
(ガクガクブルブル)
いやぁ、男性は叱られ方もハードですねぇ(笑)
その時代ですとスケバン刑事やガラスの仮面、はみだしっ子、山岸涼子はアラベスクか妖精王ですね。
マーガレットは伊賀のカバ丸、和田先生の超少女明日香や柴田昌弘の赤い牙なども始まっていましたか?

私は当時、小学校低学年で母に漫画購入を禁じられていたのですが、近所の高校生のお姉さんが「読み終わった雑誌を捨てる前に、勿体ないから良かったら読まないか?」と打診され、母が了承。
ところが、このお姉さん只者ではなく、届いた雑誌は当時出版されていた漫画雑誌ほとんどすべて!
集英社、講談社、秋田書店、小学館、少年画報社、少年誌&少女誌、青年誌、一通り揃っておりました。
そんな贅沢な漫画環境で、普通はドラえもん程度を読んでる年齢ですから「面白い漫画だけを拾い読み」していたのがすべて今日、名を残す名作ばかりだったわけなんです。

私小説、興味深く拝読しました。
我が家は、再婚同士なものですから、また違った見解も抱いたりするのですが、きりんさんの渚に、いつか半永久的な「一時的」が訪れると良いな、なんて思ってしまいました。

pipi
NOBUさんのコメント
2021年7月5日

今晩は
 お久しぶりです。
 ”それにしてもイタリア映画と違い、ドイツ作品は曇り空だなぁ。”
 同感ですね。私のイメージも同様です。
 何故でしょうかね。地域性、人種性かなあ・・。
 今週末公開の「LIGHTHOUSE」は、ずっと北欧系の映画だと思っていたら、違いました・・。けれど、楽しみです。

NOBU
Bacchusさんのコメント
2021年7月5日

こちらこそ!
私は飲む専ですけどw

Bacchus
Bacchusさんのコメント
2021年7月5日

コメントありがとうございます。
どんな原酒を使っているかわかりませんが、フェルネブランカはワインとブランデーの混合液にハーブを漬け込んでつくるんですよね…あのほぼ甘さゼロな味わいはやはり驚愕です!
って、映画の話関係ないw

Bacchus