「現代のベルリンが精霊物語の舞台になった理由」水を抱く女 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
現代のベルリンが精霊物語の舞台になった理由
水の精霊ウンディーネには湖や泉に住んでいて、本来性別はないが主に女性の姿を借りて現世に現れ、男性と恋に落ちて結婚もするけれど、恐ろしい代償を伴う。1、夫に罵倒されると水に帰ってしまう。2、夫が不倫した場合は夫を殺さなければならない。3、水に帰ったら魂を失う、等々。現代のベルリンを伝説の舞台に選んだ本作は、所々で精霊にまつわる決まり事を踏襲しているが、ファンタジー色はほぼ皆無。「東ベルリンから来た女」でもそうだったように、監督のクリスティアン・ペッフォルトは、抗えない運命に引きずられる男女の関係を、ドイツの暗く湿った風景の中で描いていく。キーになるのは、この悲しい恋の物語と、東西統合と共に発展を遂げた代わりに、古典的で美しいカルチャーを捨て去ったベルリンとを対比させつつ描写している点。ヒロインの職業を都市開発を研究する歴史家に設定しているのは象徴的だ。古き良きジャーマン文化と現代に現れた精霊を繋げることで、本作は凡庸なリアル・ファンタジーに陥ることなく、観終わっても忘れ難い一部ホラーな異色ラブロマンスとして観客の脳裏に刻まれることになった。
コメントする