「忖度なしのギャグでGAFAに中指を突き立てる社会派コメディ」デリート・ヒストリー よねさんの映画レビュー(感想・評価)
忖度なしのギャグでGAFAに中指を突き立てる社会派コメディ
東京国際映画祭での鑑賞。乗客の評価が星1つばかりで仕事が減る一方のタクシードライバーで元原発職員のクリスティーヌ、ネット通販にハマって莫大な借金を抱える鍵屋のベルトラン、一人息子シルヴァンの親権を別れた夫に奪われた一人暮らしで無職のマリー。ネット社会が産み落とした一見手軽で廉価で便利だが狡猾で無慈悲なビジネスモデルに根こそぎ搾取され、やむなく自宅のリビングを外国人のパーティに貸し出したり、ボロい家具を売ったりと様々な手段で生活の糧を得ている3人だったがイジメや恐喝、誹謗中傷によって追い詰められて、大胆無謀なリベンジに打って出る。
こんなあらすじ紹介の仕方だと暗いトーンに思われがちですが、これがとことん明るく突き抜けたラテンテイストのコメディ。SNS、ネット通販履歴からの電話勧誘、ネットオークション、オンラインフードデリバリーサービス、ドローン、VR・・・10年前には存在しなかったガジェットやサービスを巧みに織り込んだギャグの地雷が物語のあちこちでドカンドカン爆笑を巻き起こし、忖度のソの字もないギリギリセーフの下ネタが観客の良心にペッと唾を吐きかける。極めて現代的なテーマを扱いながらその映像はざらついたフィルムで撮影されたと思しき70‘s調。ケーナが高らかに鳴り響くケータイの着信音に象徴される、纏わりつくようなラテンフレーバーが自虐ネタを喉が焼ける程スパイシーに仕上げて、『メリーに首ったけ』や『her』といった作品へのオマージュをトッピングしたピザを世界を蹂躙するGAFAにフリスビーのように投げつけて中指を突き出すパンクでアナーキーなクライマックスには奥歯の隙間に挟まった癇癪玉が破裂したかのごとく爆笑させられました。
しかしこの映画の根っこにあるのはあくまでも痛烈な社会風刺。主人公3人が2年前にフランスで吹き荒れた“黄色いベスト運動”に参加していたデモの闘士であり、劇中では郊外の円形交差点が何度も象徴的に用いられている辺りに民族間だけでなく貧富の差により上下にも分断された現状への怒りが滲んでいます。サシャ・バロン・コーエンが体を張ってやり続けるギャグに対するラテンからのシュプレヒコールとも取れる本作、とにかくデタラメな味付けのコメディをテーブルに置いてシルブプレとニコッと微笑んでみせる製作陣のエスプリに戦慄しました。