劇場公開日 2021年6月11日

  • 予告編を見る

「恵まれているけどもやもやする女の人生」逃げた女 ピンクマティーニさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0恵まれているけどもやもやする女の人生

2022年5月12日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

ホン・サンス監督作品は「それから」に続いて2作目の鑑賞。
主人公のガミは、その後、家に帰ったのでしょうか。それともそのままどこかへ「逃げた」のでしょうか。

おしゃれな外車に乗って、いいお肉を持参して訪ねてきたところを見ると、今の生活は決して悪くなく、経済的に恵まれているであろう主人公のガミ。でも、リップサービスなのか、それぞれの女友達のお宅で「私もこんなところに住みたい」と漏らす。パートの仕事はしているけれど、身が入らない。先輩たちは独身で大変だけれど、自分の力で人生を切り開いている。一方、ガミは自分で人生を決められないもどかしさがあるように見えます。
夫と仲はいいようだけど、「5年間毎日一緒」「妻の友人のことをよく言わない」ところを見ると、束縛の強い夫に息苦しさを感じているのかもしれません。

この映画では、小さな動物たちがズームアップされます。
牛や野良猫のエピソードでは、地球上で人だけが「えらい」のか、本来、人と動物は対等なのではないかという示唆が含まれていると思います。ベジタリアンになりたくても、人間のエゴでお肉を食べてしまうというエピソードも、経験があるのでよくわかります。
また、マウンティングする鶏の話は、優位を誇示したがる人間の男性を示唆しているのでしょう。

ガミは今の安穏とした生活から「逃げた」のか、それとも自分の力で人生を開拓することから「逃げた」のか。最後は観客に丸投げされるので、いろいろな想像が膨らみます。「え~これで終わっちゃうの~」と言いたいところですが、ほかの作品も観てみたくなる不思議な中毒性がありました。

ピンクマティーニ