「美しい映像と徹底した客観が意図するもの」ハニーランド 永遠の谷 オスカーノユクエさんの映画レビュー(感想・評価)
美しい映像と徹底した客観が意図するもの
約1世紀におよぶアカデミー賞の歴史上初めてとなる国際長編映画賞(外国語映画賞)と長編ドキュメンタリー映画賞ダブルノミネートの偉業を成し遂げたのも頷ける。
まるで絵画を眺めているかのような息を呑むほどに美しい映像で、想像を絶するほどに厳しく残酷な現実が切り取られていく。カメラの存在をまるで意識していない被写体たちの自然な姿を見ていると、これがドキュメンタリーなのかフィクションなのか、わからなくなってくるのだ。
被写体たちがカメラを意識しないのは、彼らと決して交わろうとしない撮影者の冷徹なまでの客観が生み出した産物だろう。また、ときに美しすぎるとすら感じさせる映像は、現実の過酷さをオブラートするリスクと、逆に際立たせる効能を併せ持っている。
カメラの後ろに立つ人間たちが選んだこのスタンスは、実は鑑賞者である我々の視点を再現したものではないか。“自然と調和して生きる人々”という耳触りのいいフレーズと絵画のごとき映像が重なってできた表面上の美、そして被写体への徹底した客観が意図するのは、過酷な現実を生きる人々を対岸から眺め、それを無関心に消費していく我々への厳しい批評なのではないかと思える。
そう考えると、何とも周到で恐ろしい映画だ。
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