「取り残された孤独の地」ハニーランド 永遠の谷 bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
取り残された孤独の地
そもそも。ドキュメンタリー好きは暗い話の方が好き。シリアスなものに惹かれる。未知の世界を見せてくれそうなものほど、興味をそそられる。このポスターは逆効果だよなぁ、と、まずは思った。アカデミー二部門のキャンディデイトと言うだけでもワンサカと人は来るって。
わたくしは、バルカン半島深部の北マケドニアと言うだけでも「行かなくっちゃ!」って思いました。
欧州最貧国の一つであり、国土の殆どが山地と言う北マケドニアは、NATOにもEUにも加盟していません。と言うより、「お荷物になることは明らか」なため加盟させてもらえてないと言った方が良い。時代の流れから取り残された様な集落には、電気も水道も無く。ここは21世期の欧州なのかと衝撃を受けつつも。これがバルカン半島?コソボもセルビアも、こうなのか? ガバナンスの緩い共和国で金が無ければ、こうなるのかと。もう、ここが衝撃。
ナレーション無し。字幕無し。音楽無し。
ワイズマン手法です。淡々とバディデーとサム一家の日々を追いかけます。
人々にうち捨てられた様な、小さな集落跡の一軒に、盲目の老母とともに暮らすバディデー。断崖のミツバチの巣から蜜を採取する場面から始まるドキュメンタリー。
1964年生まれの彼女。町に蜜を売りに行きEUROを稼ぎます。髪染めを買って帰る彼女。帰宅後にカメラがとらえる母親との赤貧生活。耳の遠い母のために大声で話すバディデー。彼女は、無人となった集落の壁の中に一つ。空き地に設けた数個の土の塔に。ミツバチを飼う原始的な養蜂家。土の塔の頂きには、第一次大戦に参戦したいずれかの国の錆びたヘルメットが被せられています。戦火は、こんな奥地にも及んだという事なのでしょう。
いずれにしても。孤独と孤立の生活です。
そんな中、集落の空き家にやって来た酪農家のサム一家。5(?)人の子供と夫婦。不安そうな目で入植を見つめていたバディデーでしたが、徐々に、子供たちと近づいて行き、特に次男はバディデーに懐きます。
バディデーが経験する、どれだけ振りかもわからない「家族」の空気感。
現金が必要なサムの父親は養蜂にも手を出し、出荷を焦り無理やり集荷したことが引き金となり、バディデーの巣のハチは死に絶えます。町からやって来た、サムの親戚(?)の強引なやり口は、更にバディデーの生活を苦境においやります。
狂牛病で50頭の牛を失ったサムは、ここで生活して行く事は不可能だと、子供たちを連れ、牛を引き連れ、去って行く。
そして母親も天に召され。
冬枯れていく山々。
孤独。孤独。孤独。孤独。
どこを見渡しても、一人だけの世界。
時折、はるか上空にたなびく飛行機雲と、耳に届くジェットエンジンの音が、ここは、確かに現代社会なのだと思い出させてくれます。高地に取り残された人々。文明から取り残された山岳地帯。誰が死に、誰が生まれようと、そこにある孤独の姿は、何も変わらない。
Honeylandは、全てから取り残された孤独の地。
生きていく意味も、死の意味も、何が違うと言うのか。
心地よさを感じる「Honeyland」と言うタイトルと暖色のポスターは逆説だと思いました。が、「永遠の谷」って言う邦題のサブタイトルは何なの?
全く持って意味不明ですからw