「昭和が懐かしすぎて涙が止まらなくなる!!!」キネマの神様 菊枝さんの映画レビュー(感想・評価)
昭和が懐かしすぎて涙が止まらなくなる!!!
とにかく「昭和」という時代がめちゃくちゃ懐かしくなる映画でした。同監督の「キネマの天地」を彷彿とさせるような場面も多かった。 シーンは大きく分けて3つ。
①どうしようもないダメ人間の主人公。②主人公の意外な青春時代。③主人公のさえない人生が一変する。そして感動的なラスト。 ③に入ってからはだいぶ泣けました。
①②までで約1時間30分、③でようやく話が動き出しますが、そこまでが長すぎます!! ①はダメおやじの日常、②は過去のいきさつ/思い出/ノスタルジーで、 いつになってもストーリーが先に進みません。ちなみに隣で見ていたウチの旦那は②の中盤であきて眠ってしまった。 私はけっこう昭和好きだし古い映画も好きなのでそこそこ楽しめましたけど・・・。
まず、この映画は俳優陣が素晴らしいですね。下手くそは1人もおらず、どの方も名演技で、北川景子さんや菅田将暉さんの昭和風演技が素晴らしかった。とくに北川さんの「往年の名女優役」の演技ぶりが半端なくてドキドキしっぱなしでした。永野芽郁さんも良かったし、そのお母さん役もまるで小津安二郎監督の映画から抜け出てきたみたかった。
昭和パートは背景的に戦後でしょうかね??主人公の78才という年齢からは若干ズレると思うのですが、私の母が同世代だったので、時代の空気感はよくわかります。戦後の日本というのは暗い時代を跳ねのけるがごとく、みな太陽のように明るく、一致団結していたものですよね。
私事で恐縮ですが、母が亡くなり遺影を探すため写真を整理していたとき、戦後から昭和40年くらいまでの写真がいっぱい出てきて、そこに写っている人々の顔が本当に意気揚々とキラキラ輝いているんです。戦後の日本は皆どの家庭も貧しさのどん底で、写真を撮る機会があれば親戚一同、隣近所の人々などが大勢集まって、皆が嬉し恥ずかし大喜びで写真に収まることが多かったと聞いています。
そういった時代の貧しくも温かい絆で強く結ばれている雰囲気と、そんなに遠い時代ではないにもかかわらずこの令和の孤独で冷めきった時代とが対象的に描かれ、とてつもない郷愁を呼び覚まし、おおいに涙を誘います。
また、誰にでも訪れる「老い」を深く考えさせられます。どんなに醜く老いぼれても、誰にでも若く輝いていた時代がある。山田監督は時代の対比に加え、年齢の対比もこれでもかというほど強調して演出されています。沢田研二と菅田将暉、宮本信子と永野芽郁、それぞれの時代の写真を交互に映し出し、人生というもののなんとも言えない残酷さと素晴らしさを描いている。
ところで、志村けんさん、本当にかわいそうです!!!!!こんな素敵な映画の撮影、寸前で逝ってしまうなんて。神様はなんて酷いことをするのでしょうか!!!!!沢田さんがだいぶ気を遣いながら志村さん風に限りなく寄せて撮影に臨まれているのがよくわかってさらなる涙を誘いました。
最後に、さすがは山田監督、いま、昭和を撮らせたら彼の右に出る人はいないでしょうね。そして今後、昭和を撮れる監督はどんどんいなくなるでしょう。
昭和という時代はもしかすると、明治から続いてきた大きな流れの最後の時代かもしれないと思います。良くも悪くも人間臭くてとてつもなくドラマチックなこの時代とともに、映画の時代も終わってしまうのかもしれません。