「山田監督は尊敬しているが、令和では厳しいかも知れない」キネマの神様 エイサムさんの映画レビュー(感想・評価)
山田監督は尊敬しているが、令和では厳しいかも知れない
山田洋次監督は寅さんをはじめ、子どもの頃から数々の映画を観ており、また趣味でシナリオや小説を書き続けている、三文文士の端くれとしては畏敬の念を抱いているのだが、現代の映画としては古さを感じずにはいられなかった。
自身では辛い離婚を経験し、子供も無理やり引き裂かれ、婚活した相手の家族にも反対され、ようやく見つけた恋人と鑑賞したのだが、どうしても古き良き時代だった、昭和の家族や結婚に固執したストーリーに、違和感を禁じ得なかった。
確かに松竹百周年という、金字塔的な作品という背景はあるだろう。
しかし作中でコロナ禍を全面に打ち出し、エンタメを締め出してはならないという、山田監督お得意の権力に対するアンチテーゼにしては、いささか迫力に欠けていた感は否めない。
この閉塞した状況で、腹を抱えて思いっ切り笑いたい、あるいはこの上なく涙が溢れては止まらない、そんな琴線に触れる感動的な映画を、山田監督に期待し過ぎていたのかも知れない。
他の多くのレビューが指摘しているように、過去と現代があまりに多く錯綜してしまい、最後まで感情移入が難しかった。
また往年のトップスターだった、沢田研二さんの年老いた姿にも愕然としたが、それ以上にセリフや演技があまりに不自然で、ひとつの時代が終わったと感じざるを得ない。
しかし無声映画が出現した時代には、舞台や演舞など遠い過去になったと、多くの批評家が批判したらしいが、仮に山田監督が現代の観客などどうでも良く、百年先の観客に向かって、芸術として披露する覚悟で制作していたのなら・・・。
もはや私を含めた常人の考えも及ばぬ、崇高な存在なのかも知れない。