「共感できない古臭い人物描写、そしてコロナに縛られすぎ。」キネマの神様 tom2005さんの映画レビュー(感想・評価)
共感できない古臭い人物描写、そしてコロナに縛られすぎ。
原作読んでいませんが、予告に惹かれ初日に観ました。それだけに残念でした。
若い頃映画に関わりながら挫折し、今やアル中ギャンブル好き、闇金で借金もあるダメ主人公が、孫の助けで脚本大賞を取るが、不摂生が祟り体調を崩し、コロナ禍の映画館でかつて自分が関わった映画を見てるうちにスクリーンの大女優に心惹かれ、迷惑をかけ続けた妻を残してそのまま死ぬ話です。これをキネマの神様というなら、なんとくだらない神様。
主人公たちの若い頃の描写は爽やかで情熱に溢れ、往時の映画産業の活力も感じられよかったです。菅田将暉、永野芽郁、北川景子、リリーフランキーらの俳優陣には満足です。。一方で現代はひどいものでした。沢田研二演じるゴウと宮本信子演じる淑子はあまりに落ちぶれて、どうみても同一人物だと感じられませんでした。唯一の接点は折角の初監督映画の撮影初日にミスし、情熱を捧げていた映画からあっさり身を引いた主人公の心の弱さでしょうか。それでも晩年アル中ギャンブル漬けのダメ人間まで落ちぶれるほどではなかったので、せめて賭け事に狂うとか借金を平気でするというような人物描写があれば辻褄を合わせられたと思います。淑子も「自分でゴウを幸せにするのだ」と母親の反対を押し切ってゴウと一緒になったとは思えないダメっぷり。闇金アル中の主人公と縁を切れず、娘に金を無心する酷さ。映画冒頭からずっと首を捻って見てましたが、原田泰造の「借金は肩代わりしたらいけない、自己破産させてでも本人に始末させるのだ」というセリフに強く頷きました。中盤以降のメインエピソードである、孫の助けで現代風にアレンジした昔の脚本が脚本大賞を獲得するところは、ご都合主義過ぎではありますが、これ否定すると何も残らないのでよしとします。しかし、エンディングがありえない。ゴウは、長年の不摂生が祟って病に臥せったのち、コロナ禍を押して長年の友人の映画館でかつての名画を鑑賞中に、スクリーンの中の往時の名女優に惹き込まれ、若い頃の映画制作のシーンを思いながら往生します。「映画への情熱が戻ったね、映画と関わりながら最後死ねたね、映画の神様っているんだね。めでたいね。」なんて思わせたいのでしょうが、わたしの想像していたうちで最低のおわり方でした。全く妻が報われなかったからです。なぜ長年迷惑をかけ続けた妻ではなく、女優に心奪われて死ぬのでしょうか。ダメなったと書きましたが、とはいえ奥さんはミシンで借金を必死に返済してきていたのです。それを置き去りにして映画の世界で死ぬなど、あまりに古臭い男の生き様を美化されてドン引きしました。せめて大賞をきっかけに若い頃諦めた映画に改めて挑戦し、その制作中や上映中に妻といるときに死ぬ展開であって欲しかったです。
コロナ入れすぎです。志村けんさんが亡くなったことをなんらかの形で残したかったのでしょうが、原節子や小津安二郎の50年後は今ではないです。時代感も狂ったし、マスクしてソーシャルディスタンスキープする映画館で、映画の上映中に喋るゴウと孫も心底不愉快でした。時事ネタが入ったことで、もう時を超えることもないでしょう(わたしは二度と見るつもりはないですが)。感傷でシナリオを書き換えるべきではなかったと思います。
山田洋次監督に誰も何も言えなかったのかな。
そんなはずはないと調べた原田マハさんの小説はやはり別物らしいので小説を読んでみます。