「昭和観満載の山田劇場」キネマの神様 bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
昭和観満載の山田劇場
個人的に、原作者の原田マハさんの大ファンで、アート小説が得意なマハさんが、スクリーンをモチーフにした作品として、山田洋次監督が、どのような作品に仕上げるか、楽しみにしていた。新型コロナで亡くなった志村けんさんへの追悼の意味も込めて、沢田研二も、どのような演技をするのかも見ものであった。
しかし、正直、あまりに原作からかけ離れた内容と展開で、原作を知る者からしたら、何か違うと感じ、期待を裏切られた印象が強い。家族愛や人情劇がより強く前面に出てきてしまっており、それが山田監督らしさではあるのかもしれないが…。
この原作は、それぞれの登場人物が映画をこよなく愛していることがテーマとして描かれており、その映画の代表作として、あの名作『ニュー・シネマ・パラダイス』が、作品の全編の根底に流れている。そこが、全く本作では扱われなかったのが、大変に歯がゆいし、『ニュー・シネマ・パラダイス』を抜きにしては、本作は語れないのではないかとも思う。
また、演技の上手い下手を評する資格はないが、沢田研二の演技は、観る者を引き付ける魅力は感じず、鼻につく台詞や演技に入り込めなかった。また、大女優・宮本信子も、昭和観満載の女性を演出した演技が、どうも馴染めず、わざとらしく感じた。
その中で、菅田将暉は、夢溢れる、お調子者の助監督役を好感が持てる演技だった。また、銀幕の大女優を演じた北川景子は、確かにその時代に、その女優が存在したかのようで、美しさでも魅了した。そして意外だったのが、RADWIPSの野田洋次郎。朴訥とした、映写技師の役を、自然体な演技で務めていた。
松竹100周年記念作品としては、山田監督がメガホンを撮り、これまでのシネマの歴史を振り返りながら、志村けんへの哀悼の意を込めた松竹らしい人情劇にはなってたいた。しかし、それだけ。原作から想像した作品とは、違っていたのが残念であり、原作とは別物として鑑賞した方がよいのかもしれない。
そうでしたね。映画ファンであり、原田マハさんのファンでもある者として、『ニュー・シネマ・パラダイス』を抜きにした『キネマの神様』は、あり得ないと思います。