「NMB48と地下アイドルと近鉄バファローズのオタクだったあの頃…」あの頃。 わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)
NMB48と地下アイドルと近鉄バファローズのオタクだったあの頃…
今泉監督作品は「愛がなんだ」以降は見るようにしています。すごく好きな監督です。これで良いじゃないですか。最近はニワカだなんだ、古参がなんだとマウンティングをしたがる人も多いですが、好きなら好きで優劣をつけなくて良いと思うんですよね。
今回の登場人物は、ハロプロという共通点がありながらも、推しているメンバーは必ずしも一致しているとは限りません。でも、キラキラした顔で自らの推しの良さを語り合っていました。互いの性格の悪さについて批判することはあっても、互いの推しメンをけなし合うことはしていませんでした。これこそ理想の仲間ですよね。愛すべきキャラクターばかりでした。
「あの頃。」というタイトルでしたし、あらすじの時点で仲間のうちの一人が病魔に襲われるというのは分かっていたので、懐古厨に導く映画なのかと思っていましたが、そういう訳ではありませんでした。過去は過去として大切に心にしまっておきつつも、今が一番楽しくあるべきだというメッセージを感じました。“現在進行形”を“恋愛進行形”と置き換えた歌詞が印象的な曲の引用や、道重さゆみさんの名言の引用も最高でしたね。
これは脚本や演出の問題というより原作の作家性が所以だとは思いますが、ややコンテンツを消費するホモソーシャル的なノリに賛否があることは否めません。アイドル=風俗=アニメというコンテンツの好みの趣向の変化もまあ分かるけど…となりましたが。現代を描いた映画ではないのでポリコレ云々の指摘は目を瞑って良いんじゃないかなと思いました。
恋愛研究会の面々の演技は本当に素晴らしかったです。中田青渚ちゃんも良かったですねえ。ロマモーを歌い出すシーンとか、ストーカーとの対峙シーンとか、生前葬でのやり取りとか、本当にニヤニヤしてしまいました。今泉監督は「えっ?」という登場人物同士の違和感やズレの表出によるコメディ的な演出と、それをやや俯瞰した目線で見つめさせる画作りが好きなので、今回もその手腕を遺憾なく発揮させていました。
ラストカットも余韻を残す終わり方で涙を流してしまいました。この時間軸の移動というセンスに脱帽です。彼はこのカルチャーから卒業してしまったように見えて、実は心の奥底に大切にしまっている現在進行系の好きなカルチャーなんだと思わせてくれました。全ての趣味や人をいついかなる時も同じ熱量で愛するというのは無理だと思うので、こう合ってほしいという願いを叶えてくれたという驚きもありました(予想していない終わり方だったので)
そして、自分自身もNMB48や地下アイドルに熱狂した過去がある人間です。握手会前のキョドキョドした感じとか、カルチャーに対する“崇高”な想いとか、アイドルをニックネームじゃなくさん付けで呼ぶ感じとか本当にリアルでした。また、この趣味がきっかけで知り合った人と、疎遠になってしまったなあとか、好きなものは違っても今でも付き合ってくれる人もいるなあとか、自分事として考えさせられました(笑)そういう意味で、「花束みたいな恋をした」との比較も面白いと思います。
最後に、この映画で松浦亜弥や2005年石川梨華卒業コンサートに来ていた近鉄バファローズのユニフォームに帽子を被ったオタクが「このあと推しチームも失うんだよな…」と思って全く関係ないところで感情移入して泣いてしまったことを記しておきます(笑)