「陽だまりのように優しく、温かく、ちょっとだけ奇想天外」おらおらでひとりいぐも 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
陽だまりのように優しく、温かく、ちょっとだけ奇想天外
沖田作品はいつも陽だまりのようだ。たとえ主人公の心に生きる上での悩みや悲しみ、孤独がのしかかろうとも、決して吹きっさらしのままにはせず、いつしかなんとも言えない温もりがその身をそっと包み込む。樹木希林を演出した「モリのいる場所」の自由さにも驚かされるばかりだったが、今回、田中裕子演じる「桃子さん」の中でゆっくりと移ろいゆく記憶や想いに寄り添う過程にも、確かな優しさと温もりがにじんでいた。一人きりになると決まって現れる「心の声」の表現も毎度おかしくてたまらないが、そこから奇想天外なマジックリアリズムへと突入したり、上京直後の夢と希望、家族みんなが居た頃の懐かしい記憶が急に沸き起こったり、はたまた彼女の人類史への興味関心もダイナミックに映画を息づかせる。140分近い作品だが、もっと寄り添って見つめていたいとも感じる。またも人間のこと、歳を重ねることを好きになれる名作を、沖田監督は届けてくれた。
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