「ギリギリ知っているレジェンド、エルヴィスの光と影に圧倒される159分間」エルヴィス よねさんの映画レビュー(感想・評価)
ギリギリ知っているレジェンド、エルヴィスの光と影に圧倒される159分間
福音派の集会で神の啓示を受けて音楽に目覚めエルヴィスのパフォーマンスを初めて触れた女性達が自分の中に湧いてくる興奮を抑え切れなくなって絶叫する様をじっくり描写する冒頭の場面が印象的。白人でありながら黒人達ばかりが住む地区で育ち、白人達が無視してきたブルースを愛した男が白人優位の世界にセンセーションを巻き起こす様がいかにもバズ・ラーマン的なギラギラな装飾で徹底的にデコられますが、それゆえに保守的な白人達から目の敵にされたりパーカー大佐に搾取され続けたりのダークサイドがくっきりと浮かび上がります。
エルヴィスの動作を徹底的に研究したと思しきオースティン・バトラーの演技がとにかく切なくも美しいですが、ギリギリエルヴィスを知っている世代としては、割と当たり前のように聴いていた『ハートブレイク・ホテル』がど真ん中のブルースであることに改めて気付かされたり、BBキングやリトル・リチャードとの交流がストンと腑に落ちたりと隙間だらけだったパズルのピースがバンバン嵌まっていくような感覚が痛快でした。
『ボヘミアン・ラプソディ』におけるフレディとメアリーのように、愛するが故に激しくぶつかり合うエルヴィスとプリシラの関係性も美しく、『トップ・シークレット』でエルヴィスのバッタモンみたいな主人公をヴァル・キルマーに演じさせたZAZが『裸の銃を持つ男』シリーズでプリシラをヒロインにしたり、まんまエルヴィスな風貌のアンドリュー・ダイス・クレイ主演の『フォード・フェアレーンの冒険』でもプリシラがヒロインを演じたり、エルヴィスの長女のリサ・マリーがエルヴィスと同じく黒人音楽を全世界に浸透させたマイケル・ジャクソンやエルヴィスの大ファンであるニコラス・ケイジと結婚したりといったエルヴィスの死後に起こった様々なことが全部エルヴィスの掌の上で起こったことのように錯覚してしまう、そんな余りにも巨大な存在であるエルヴィスの存在感に圧倒される159分間でした。