「漆黒の表現を味わうことができるスクリーン環境で楽しみたい一作。」THE BATMAN ザ・バットマン yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
漆黒の表現を味わうことができるスクリーン環境で楽しみたい一作。
ティム・バートン監督『バットマン』(1989)以来何度目かの「バットマン」のリブート作品です。クリストファー・ノーラン監督による、いわゆる『ダークナイト トリロジー』三部作(2005-2012)によって頂点に達した、ダークヒーローとしてのバットマン像と漆黒を基調とした美術的方向性は引き継ぎつつ、本作はバットマン、というよりもブルース・ウェインの「闇」を一層強調した作りになっています。
本作でバットマンに立ちはだかる敵は、「バットマン」シリーズのスーパーヴィランとして知られるリドラーですが、アメコミヒーロー作品におけるヴィラン的要素は皆無で、ひたすら異常さ、陰湿さが際立っています。恐らく古今東西の異常犯罪者、テロリストを踏まえて造形されたと覚しき本作のリドラーは、基本的に生身の人間として事件を引き起こしていること、その手口がいずれも、テレビ映像などで見たことがあるようなものであるため、彼の恐ろしさが一層生々しさを持って迫ってきます。これがほぼ3時間続くわけですから、鑑賞にはそれなりの心の準備が必要でしょう。
対峙するブルース・ウェインことバットマンもまた、尋常じゃない狂気を湛えていることは一目瞭然です。事件現場に現れたバットマンを見て周りの警官達が「何こいつ…」といった眼差しをして後ずさりする様は、観ている側の心理と見事にシンクロしていて、思わず笑ってしまうほどでした。キャットウーマンのエピソードは余計だった、省略していればもっとスッキリとした物語になったはずだ、という批評もあるようですが、そうすると作品に「闇」しか残らないような…。そんな映像も物語も暗さに満ちた作品ですが、結末は意外なほどに爽やかで印象的。淀みから清浄な空間に引き出されたような気持ちで劇場を後にすることができました。
本作はシリーズとしては企画されていないためか、これまで主役級の扱いだったのに、顔見せ程度にしか登場しないキャラクターも登場します。あるヴィランは(リドラーではなく)バットマンにひどい目に遭わされるためだけに登場しているとしか思えず、ちょっとかわいそう。