劇場公開日 2020年7月17日

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「新訳「怒りの葡萄」」パブリック 図書館の奇跡 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 新訳「怒りの葡萄」

2025年11月20日
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鑑賞方法:DVD/BD

この作品は作品内でも言及されるスタインベックの「怒りの葡萄」であったと思うのです。
現代版「怒りの葡萄」新訳「怒りの葡萄」もしくは、監督で脚本、制作でもある主演のエミリオ・エステベスの「怒りの葡萄」の感想。

「怒りの葡萄」は図書館利用者の知的自由に関する「図書館の権利宣言」と深い関わりのある作品で、そこから図書館に籠城するホームレスの、私たちが主に観ているこの作品になる。
「怒りの葡萄」からホームレスの籠城まで、無関係のようで絶妙に繋がっていることに驚くのだが、本当にすごいことは、着想の始まりが、ある図書館がホームレスのシェルターになっているという記事であることだ。

11年もの歳月を費やしただけあって多面的に様々なことを盛り込み、巧妙にリンクさせながら構築した脚本は素晴らしい。
まず、ホームレスにとって真に必要なものとは?という問いかけ。
次に、個と公共の対立を、主人公スチュワートを公共の、検察官と女性リポーターを個の代表として表現。息子を探す個としての側面と交渉人として公共の両面を持つアレックス・ボールドウィン演じるラムステッドがバランスをとる。
その中に、知識を提供する場である図書館らしく、知識をひけらかす図書館員と無知なリポーターがある。ラムステッドは知識をひけらかすことを鼻につくと言い、ここでもバランサーだ。

作品内では図書館は民主主義の最後の砦と言っているが、自由主義の、もしくは権利の最後の砦じゃないかと思う。
民主主義のためには検閲されない情報開示が必要ということでは?と一緒に観ていた妻は言ったが、検閲されていても一応民主主義は成り立つわけで、やはり図書館を民主主義にまで飛躍させるのは行き過ぎな気がする。

話がそれたが、何度となく出てくるアメリカ人らしいバカな問い合わせや、知識をひけらかす図書館員と無知なリポーター、この作品自体が新訳「怒りの葡萄」であることから、今のお前らはバカばっかだぞ、もっと知識や教養を身につけろと言っているのかなとも思う。

しかしながら、そこに含まれるメッセージ性には感心するものの、驚きや発見といった娯楽性が足りず、少々物足りない。
突き抜けた主張を回避し常にバランスをとったことは良いとも言えるが、やはりこれも物足りなさを生む原因であったと思う。

楽しむために知識や教養が必要な、知的な作品であったが、作品内でバランスをとったように、知識や教養がなくとも楽しめるバランスを演出家としてのエミリオ・エステベスが提供できなかったのかなと感じた。
せめて主演は別の人にすればよかったのに。

つとみ
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