「寒波に苛まれた街で起こった騒動が浮き彫りにする社会問題に立ち向かうワケあり図書館員のささやかな抵抗が眩しい」パブリック 図書館の奇跡 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
寒波に苛まれた街で起こった騒動が浮き彫りにする社会問題に立ち向かうワケあり図書館員のささやかな抵抗が眩しい
舞台は寒波が押し寄せるオハイオ州シンシナティ市。毎日のようにホームレスが路上で凍死する事態に胸を痛めるスチュアートが勤務する公共図書館にも朝から閉館まで暖を取りに来る常連のホームレス達がいる。ある日上司のジェフリーから呼び出されたスチュアートはシンシナティ市がホームレスから訴えられたことを知らされる。そのホームレスは図書館を利用していたが、他の利用者からのクレームを受けて止むを得ずスチュアート達が追い出した男だった。様々な境遇にある人達が十人十色の目的で利用する公共図書館が見舞われた騒動はそれだけではなかった。市内の緊急シェルターがどこも定員いっぱいで寝る場所を失ったホームレス達が閉館時間を迎えた図書館からの退去を拒否したのだった。彼らと館内に残るハメになったスチュアートは事態を平和裏に収拾しようとするが、次期市長の座を狙う検察官やスクープを画策するニュースキャスター達によって騒ぎがどんどんと大きくなっていく。
製作・監督・脚本・主演を務めているのがエミリオ・エステベス。善良な市民が失業によってあっけなく家を奪われてしまう貧困の問題だけでなく、全米を席巻するオピオイド依存症の問題などの社会問題にも触れながら、様々な著書からの引用を織り交ぜて権利とは自由とは何かを観客に問い、なぜスチュアートが図書館を利用するホームレスの人達に親身に接するのかを少しずつ見せていく地味なドラマ。スタインベックの引用他本好きの人達ならニヤリとしてしまうようなセリフの数々が沢山ありますし、意外なところでデヴィッド・クローネンバーグ好きもクスッとしてしまう映画ネタもあったりして重厚なテーマを扱いながらもなかなか軽快に楽しめる作品。夜な夜な行方不明の息子を探し回るシンシナティ市警の交渉人ラムステッド、図書館での騒動までも自身のイメージアップに利用しようとする検察官デイヴィスといったキャラクターをもっと生かせるエピソードを盛り込めたのではないかというちょっとした食い足りなさもないではないですが、スチュワートの周りにいる人々が持ち込むちょっとイイ話の数々がそれを帳消しにしてしまいます。突き抜けた爽快感こそありませんが、人々の良心にさりげなく寄り添う慎ましやかな良作です。