「公共。地味だが奥深いテーマ設定の巧さ」パブリック 図書館の奇跡 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
公共。地味だが奥深いテーマ設定の巧さ
監督としてのエミリオ・エステベスは、ロバート・ケネディ暗殺を扱った「ボビー」など派手めの題材も手がけたが、新作で描くのは一見地味な、大寒波の夜にホームレスたちが図書館を占拠する騒動。兼脚本のエステベスが、巻き込まれる心優しい司書スチュアートの役で主演している。
図書館がホームレスのシェルター代わりになっている、との記事に着想を得た。他の利用者から苦情で退去させた悪臭のホームレスに訴えられる話が出てくるが、実際に米国の図書館が苦慮している難題だとか。
騒動に乗じて顔を売ろうとする野心家の検察官(こんな小悪党役が増えたクリスチャン・スレイター)とTVレポーターにより、スチュアートは危険な扇動者に仕立てられてしまう。占拠の行方も楽しめるが、所得格差、ホームレス支援の不足といった社会問題の穏やかな提起に感じ入った。公共は、また知の拠点である図書館は、どうあるべきかを考えさせる力が確かにある。
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