「その場所は誰のものか。公共の本当の意味」パブリック 図書館の奇跡 映画野郎officialさんの映画レビュー(感想・評価)
その場所は誰のものか。公共の本当の意味
モノやサービスが溢れる現代、見た目や機能に差のないものを手に入れることでは満たされず、体験というかたちのないものが価値を持ち、所有から共有へとシフトしている。
しかし根本では人間の所有欲は変わらず、今回のコロナ禍でも買い占めというかたちで露呈した。
不景気と言われつつも、企業の内部留保や高齢者の貯蓄、富裕層の資産など一部では金余りが生じ、世界的に格差が広がっている。また飢餓で苦しむ人たちがいるなかで、日本ではフードロスが問題となっている。
お金は天下の回りもので、流通量が変わらないのであれば理論上全員が生活していくための経済は回していけるのではないだろうか。
血液と同じで、誰かがどこかでその流れを止めると滞り、本当に必要としている人たちに行き渡らない。まさに相田みつをの名言の通り、「うばい合えば足らぬ わけ合えばあまる」である。
お金は信用であると同時に投資した時間の裏返しで、まさに消費するために人生で最も貴重な時間を消費しているという負のスパイラルが起きている。
反対に、何も持たないことは自由であると、この映画のホームレスたちは身体を呈して訴えている。
ただ、学びによって得られる知恵はどれだけ持っていても邪魔にならないし、未来につながる投資である。それを富める人も貧しい人も平等に享受できる拠り所が図書館だったはずだ。恵まれない境遇に生まれた人たちが立ち上がるため武器でもある。
そして、最たる所有の権化は「権力」と「メディア」の利己主義である。
それに立ち向かう彼らたちが砦とする図書館はまるでひとつのまちのようだった。これが本来の人々が支え合う暮らしの理想形なのかもしれない。
強いて言えば、テーマは鋭く、それを本に重ね合わせてストーリー(コンテキスト)で包むのは素晴らしいが、刑事と息子の物語や、クライマックスへ向かっての展開がもう少し深みがあると良かった。
本当に生きていくために最低限必要なものはなんだろうか。深く考えさせられる作品だ。