劇場公開日 2020年3月20日

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「東大熱血教室」三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 東大熱血教室

2025年11月13日
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三島由紀夫はむつかしくて確か「F104」と「侯爵サド夫人」くらいしか読んでない。。
そのため平野啓一郎の弁をカンペにすると、三島由紀夫は戦中、出征していった学生同様、自分も昭和天皇に殉じるロマンチシズムに取り憑かれてたのに、終戦でハシゴを外され、望まざる戦後の自分、社会、天皇の姿に忸怩たる思いを抱えていたようだ。

それらを照らし出すために「楯の会の三島由紀夫」というキャラを生み出し、自ら演じることに熱中していったのが晩年の彼の姿。
つまり彼自身がお芝居「三島由紀夫」として自作を演じ、そのクライマックスがあの市ヶ谷駐屯地でのスピーチっていう。なるほどねぇ。。

みんな大小何かしらの人生ストーリーを演じているわけですが、彼の場合はずば抜けてマジメ。
幼き頃より肉体労働のマッチョ男性に憧れ、不器用ながらもあるべき自己像を目指して決意、努力、実現した。まるで叶恭子さん(もしくは木嶋佳苗)のよう。。

そんな必死のセルフプロデュースに冷や水を浴びせる芥正彦。そもそも小説はひとつの独立した時空なんだから、そこで多くの人生を生きてきたはずのアンタがなぜわざわざ別人になろうとする?って言ってるように思えた。さすがの三島も大苦笑。

それでも三島は「意地」というワードを盾に、あくまで自分の生き方に固執するポーズをとる。自分の滑稽さはとっくに織り込み済み、わかった上で、じ、自覚的に選んだ道なんだな。

一方で、ほんの紙一重の差で、目の前の若者たちに共感と共闘の可能性を示したりするし、なにより本人、めちゃくちゃ楽しそうに学生の弁に耳を貸す。中には未熟な主張もあっただろうに、イラついたりピリついたりせず、えらい知識人が思い上がった若僧を論破…なんてセコいスタンスはとらない。きちんと大人。ナイスガイだ。

この900番教室において三島は、理想的な熱血先生であり、キュートなアニキであって、わずか2時間の間に、学生とほのかな友情さえ通わせる。

市ヶ谷の事件を受けて芥正彦は、「やりやがった」的な祝福コメントをしていたけど、これには三島も、草葉の陰でニヤリじゃないかな。
彼は日本人として2番目のノーベル賞作家の栄冠より、自分が作った三島由紀夫というキャラを演じきる方を選んだ。
だから完遂を喜ぶべきなんだろうけど、もしそうでなかったら、こうして若者たちと交流しつづける道もあったんじゃないかな…と少し惜しい気持ちになった。

ipxqi
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