「言葉というものに真摯で誠実な人だった」三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 さとうさんの映画レビュー(感想・評価)
言葉というものに真摯で誠実な人だった
友人に勧められて。
「おお…三島由紀夫が生きとる…動いとる…」ということにまず何か感動してしまった。
討論の内容は私には難しいものだったけれど、気迫と雰囲気と、そして三島由紀夫の語り口のあまりの嫌味のなさ、雄弁さに圧倒されて100分間食い入るように没頭して観てしまった。
学生たちの弁に対して一切の否定もせず喧嘩腰にもならず、題材は難解なのに何も知らない私の頭にもすらすら入ってくる分かりやすい答弁。
言葉というものに真摯に誠実に向き合い、それを伝えることに対する努力を常に怠らなかった人なのだなと思った。
それと同時に、たしかにここまで誠実で真面目な人が志を保ったまま生きていくのは、この時代にあっても相当に困難なことだったのだろうなと感じた。
三島由紀夫作品は初期の頃のものしか読んだことがなかったけれど、あらためていろんな作品を読んでみたいと思う。
そしてそして時代の熱気に感服しっぱなし。
国と個人の運命が共にあり、国と個が同一だった戦争の時代が終わり、そしてそこで「生き残ってしまった」と考える人たちが葛藤を抱えながら生きて生きてつくった時代。
国と個人が完全に別れてしまった現代では考えられないほど、若者が世の中や国について真剣に考え、当事者意識を持っていたんだろうなと思った。
今みたいに時間を潰せる娯楽が死ぬほど溢れかえっている世の中では、きっと人は無限の娯楽の消費に必死で、こういうことを考える時間も思考もなくなってきちゃってるんだろうな。
学生運動に参加していた熱量の高い若者、それに三島由紀夫が生きていたとしたら、一体今のこの令和の世を見てどう思うんだろうか。
こういった映像がちゃんと残されており、一般人でも見ることのできる形にしてくれたことに感謝。
本や教科書だけでは感じられない生きている人間や時代を感じることができ、本当にありがたい。