劇場公開日 2020年3月20日

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「誰もが何かを「議論」出来る時代に捧ぐ」三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 ニコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0誰もが何かを「議論」出来る時代に捧ぐ

2020年3月24日
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鑑賞方法:映画館

 東大安田講堂事件の約4か月後、三島由紀夫と東大全共闘との討論会。この面子とシチュエーションだけで、凄まじい「言い合い」を連想した私は愚かだった。三島は自らと全共闘の思想が全く相いれないものではないことを直感的に見抜いていて、論破ではなく説得をするためにこの一触即発とも思える場に臨んだ。
 口調は終始穏やかで、時に自分を俯瞰した物言いをして笑いさえ誘う。全共闘の学生達も、三島の思想は受け入れられなくてもその討論に対する誠意は序段で感じ取っているのが分かる。互いに相手の言葉が終わるまで静聴し、提示された疑問には正確に答える。時に哲学的でさえある高次元の、本物の討論がそこに成立していた。
 今、ネットを中心に多種多様な言論が渦巻く中、イデオロギー死守ありきの論争や枝葉末節の論破で「勝ち負け」を決するような「言い合い」が巷にあふれている。熱情と、勝敗ではなく真実を求める真摯な言葉、そして相手への敬意を終始保ったこの討論会は、誰もが見知らぬ誰かと議論できるようになった現代において、より示唆に富んだものになるのではないだろうか。

ニコ