「月並みだけれど、どうかみんな幸せでいてほしいと願わずにはいられない」行き止まりの世界に生まれて ycoさんの映画レビュー(感想・評価)
月並みだけれど、どうかみんな幸せでいてほしいと願わずにはいられない
前情報ほぼ無しで視聴。
オープニングは軽やかで臨場感があるスケボーの疾走。
広い空と広い道、青春映画のような映像。クレジットも表示される。
場面が切り替わって少年たちのたわいもない楽しそうな場面、
それぞれの名前が紹介される。
「え?今の男の子、監督と同じ名前じゃない?」あわてて巻き戻す。やっぱり同じ。
「この子が撮ってるの!?」まずそこでびっくり。
物語はそれぞれの少年の背景と共に現在の状況を映していく。日本で言えば「ヤンキー」に類するのだろうか。貧困にあえぐ街で低賃金重労働ではたらいたり、恵まれない家庭の中で暮らしたりしている。未成年なのに酒も飲むしマリファナもやる。
けれども友だちどうしているときはとても楽しそうだ。あどけなさすら感じさせる笑顔。
純粋に、そこに居場所を感じている。
しかし、いつかは大人にならなければならないと自覚し動き出す。
その様子を監督は記録していく。
高卒認定試験を受けたり、結婚し親になったり、初めてのアルバイトをしたり。
が、なかなかうまくいかない。
彼らのもがきを彼らの抱えている苦しみを、監督は丁寧に映し出す。
少年期(といっても10代後半だが)~青年期にかけてのものというのもあり、彼らの苦悩の原因の根底には家庭・親があることがわかる。過剰に厳しかったり冷たかったり荒れていたり、暴力が常習化していたり。
特に暴力を振るわれたことを語る時、彼らはとても苦しそうだ。しかし、そんな中でもそこに親の愛情を見出そうとする者もいる。それが良いのか悪いのか、難しい。
終盤は立派な青年になった監督による実の母親へのインタビュー。
彼が、友人たちを撮りながらたどり着いたのがそこだったということだろう。
監督も友人たちに負けない家庭環境であった。彼は押し込めていた様々な感情を、
おそらく、それらを爆発させたい気持ちを抑えて、決意をもって彼女に真意を尋ねていく。
彼女の表情はもちろん、自信の表情もしっかりカメラに捉えさせる。
エンディングでは直近の彼らの状況が知らされる。少なくとも、この時点ではそれぞれが希望をもって進んでいるように思えるし、そうであってほしいと心から願わずにはいられない、そんなエンディングだ。
監督は、撮り始めた時は、まさかこんな大作になろうとは思っていなかったであろう。
しかし、監督自身が苦悩と背中合わせの青春を送る中で、友人たちを見つめ感じ、そしてその「感じたもの」がなんであるのかを問い続けた。その真摯で聡明な若き監督に拍手を送りたいし、彼が今後どのような作品を撮っていくのかも楽しみだ。
また、この映画を観て少し思ったのは、少年たちの中で一番今後が心配な子は、
もっとも母親=母性に飢えた幼少期を過ごしているということ。必ずしもそれだけではないだろうけれど、幼い子にとって母性、無償の愛と肯定と保護を受けるということがいかに大切かであるか、ということについて考えさせられた。