「凄まじいSF」TENET テネット R41さんの映画レビュー(感想・評価)
凄まじいSF
『テネット』を2度以上見た。
それからようやくまた見る気になって鑑賞した。
それにもかかわらず、謎だらけのままだ。
この物語が何を表現しているのかと言えば、ニールの最後の言葉「世界を変えることができる威力ある爆弾」に集約されるだろう。
そしてそのひとつは、たとえ知らないことでも影から守ってあげたいと思う気持ち、いわゆる愛なのだと思う。
そのために、クリストファー・ノーラン監督が壮大なフィクションを手掛けるのは本当に凄いとしか言いようがない。
ややこしさの最初にあるのが、主人公に名前がないことだ。
ここにも何か仕掛けられているように感じる。
彼こそ視聴者を象徴しているのだろう。
そして、この世界を滅ぼそうと考える男セイター。
彼はすい臓がんのため刹那的感情を持っており、まるで三島由紀夫が言った「オレが死ねば世界も消える」と同じ発想だ。
この意外に思われるかもしれない普遍的な考えが、この作品の下敷きになっているのだろう。
この世界が私の誕生と共に発生し、私の死と共に消え去るという概念はスピリチュアルにもある。
このややこしい概念からスタートしているのも、わかりにくさの一因だろう。
それをSFを通して物質的にやってしまったのがこの物語だ。
この緊迫感は「オッペンハイマー」の核分裂の連鎖が起きたらどうなってしまうのかというのを感じさせる。
未来の科学者の女性がアルゴリズムで知ってしまったこと、そして荒廃した未来人が望んだのが世界の破壊だったことが語られる。
この極端な発想と荒廃した未来の未来人の説明が割と淡々としていることで、わかりにくさに拍車をかけている。
そして、巡行する時間と逆行する時間の同居こそ最大の矛盾を感じるが、これこそがこの作品の特徴でもある。
そして同時に存在する「私」。
理解不能に拍車をかける理解不能な設定。未来からの指示を受けて任務を遂行する過去の私(主人公)。
未来の彼の命令を順守するニールもまた矛盾しか見えない。
ニールだけでも、見ていないところでいったい何度回転扉を潜っているのだろうか?
全体的な空間だけでなく、個々の人物たちに個々の命令を出しているという点もややこしすぎる。
世界を破滅から守る。
この壮大な計画こそがモチベーションだが、クリストファー・ノーラン監督が視聴者でもある主人公に見せたかったのは、やはり「希望」だろう。
何としても、どんな手段を使ってもやり遂げる意志こそが未来を創っていくものなのだと思う。この希望こそがこの作品の着地点だったように感じる。
主人公にとってキャットの存在は非常に重要だ。
彼女はセイターの妻であり、彼の支配から逃れたいと願っている。
主人公はキャットを助けることで、セイターの計画を阻止するための鍵を握ることになる。
キャットは主人公にとって、単なる協力者以上の存在だが、彼女への想いがどこにあるのかは難しい問題だ。
彼女を救うことは、主人公にとって倫理的な使命であり、彼の人間性を示す重要な要素だが、女性として特別な想いを抱いている影だけが見えるようだ。
キエフ(私はあえてこの名前を使う)から始まったこの物語。
ロシアのウクライナ侵攻の2年前。
プルトニウム241
そして未来。
監督はこの陰謀論に相当詳しい。
もし、あの時ヒラリーが大統領になっていたら起きたはずだった事件を彷彿とさせる。
マレーシア航空370便の不明事件も臭わせている。
何もかも前もって仕組まれていることを映画を通して見せられているというのも、あながち嘘ではないと想像してしまう。
しかし、難しい。
ややこしい。
だから面白いのだと思う。
日本人が作るのが弱いSFだが、世界のSFは相当進んでいるようだ。
難し過ぎてもうついて行けないと感じてしまうほどだ。