「謎解きとギミックの面白さに嵌まれるかが鍵」TENET テネット しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
謎解きとギミックの面白さに嵌まれるかが鍵
数学も物理も苦手なのに、SF好きなので、難解な概念は、ニュアンスで何となく理解して遣り過ごす。
タイムスリップを説明する時、よく、時間がレコードに例えられる。刻まれた溝を針が辿るのが時間の流れとすれば、針が跳ぶのがタイムスリップだと。とすれば、レコードを逆回転にする方法が見つかったのが、『TENET』の世界という事だろうか。
『エントロピーの法則』や『親殺しのパラドックス』も、SFではお馴染みのキーワード。私のようなナンチャッテSF勢でも、意外と乗り切れる。
問題になるのは、時間逆行を鍵とするトリックの難解さ。
『逆行はできてもスキップはできない』『逆行順行の切り替え地点は決まっている』『逆行世界では空気供給無しには活動できない』『起きてしまった事は変えられない』などの法則を踏まえて、何が起こっているのかの謎解きをしなければならない。
映像上にヒントは様々散りばめられているのだが、ハイスピードなアクションや緊迫した展開の中、字幕に気を取られながらの鑑賞で、それに気付くのは容易ではない。
結果、「よく解んないけど、アイデア面白いし、アクション凄いし、何かカッコ良かった!」と、甚だ感覚的な感想になるのは致し方ないだろう。
繰り返し鑑賞を前提として、パズルを組み立てるように謎解きしたり、考察したりして楽しむのが、この映画の醍醐味であると思われる。
反して、話の構造や人物設定は、相棒とヒロインと共に、世界の危機を企む敵に立ち向かうという、大変オーソドックスなタイプ。
どの人物も余り深掘りされないので、キャラクターにそれほど魅力がないのが残念。唯、相棒の立ち位置ばかりは、この物語のキーとなる為、群を抜いてオイシイ。
個人的な感想としては、面白かったけど、答え合わせのリピート鑑賞は、後日配信かレンタルでいいかな、という所。
ただ、コロナ禍で多くの大作映画が封切り延期を決定する中、劇場での上映に踏み切ってくれた事に、感謝の意を表したい。再び映画館に足を運びたいという気力を与えてくれた。
毎回あっと驚くアイデアで、本格的なSF映画を生み出し続けてくれるノーラン監督。次の作品も楽しみだ。