「ノーラン流007はロマンチック映画」TENET テネット りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
ノーラン流007はロマンチック映画
キエフのオペラ座でのテロ事件のさなかに、敵側につかまり自決の道を選択した男(ジョン・デヴィッド・ワシントン)。
死の淵から帰還した彼に告げられたのは、あるミッション。
エントロピーの変化を操作できる装置が未来で作られ、何者かによって、その装置が現代に送り込まれてきた。
装置の使い方によっては世界が破滅する。
よって、その装置を手に入れてほしい・・・
といったところから始まる物語。
ま、こんなにわかりやすいように映画は始まらないのだけれど、簡単に書くとこんな感じ。
何者かが、ある装置で、世界を破滅させようとしている。
装置を取り戻して、世界を破滅から救う・・・
という、007に代表されるスパイ映画だ。
ただし、これまでのスパイ映画と違うのは、その装置の一部が劇中早々から起動しているために、時間の流れが前後したり、遡行したりする点。
安っぽいスパイ映画だと、その装置の一部が起動していても、コップに溶けた氷の塊(すなわち水)が、エントロピー減少により時間遡行で、水自ら氷の塊に戻るのをみせて、登場人物たちは時間を飛び越えて移動したり、遡行行動(逆回転世界での順方向行動)をとったりしないわけで、もう、予算もへったくれもなく、そこんところを見せるのがこの映画の見どころ。
で、007シリーズ中でも『女王陛下の007』がお気に入りのクリストファー・ノーラン監督は、そういう特撮的見せ場以外に、運命論的男女の関係を持ち込んできました。
ストーリーが進んでいくうちに、主人公の活動の動機を、世界救済から運命の女の救済へと巧みにすり替えていきます。
そして最後には、ラブロマンス+スパイスリラーの古典『カサブランカ』へオマージュを捧げます(ノーラン監督は基本的にロマンチストなわけです)。
(「これは、美しい友情の終わりだ」というセリフは、『カサブランカ』の「これは、美しい友情のはじまりだ」のもじりですね)
というわけ、ノーラン流のスパイ映画は、時間SFを取り入れたロマンチック映画でした。