「何度も観たくなるか否か、それが分かれ目だ。」TENET テネット ゴールド寿司さんの映画レビュー(感想・評価)
何度も観たくなるか否か、それが分かれ目だ。
過去のノーラン作品の分類で言うなら、「メメント」や「インセプション」寄りと言える。「インターステラー」を例に挙げる方もいるが、理解しにくさの種類が異なる。インターステラーは現象に対する謎解きなのに対し、テネットは話が分かりにくい。
いきなりの超展開で謎が謎を呼ぶが、それはあくまで観ている我々が理解出来ない(しにくい)のであって、作品中の人物達は理解したまま物語が進む。この主人公と観客の「理解度の乖離」が、実は映画を観る上でのストレスに大きく関連する。
同じ「謎の多き映画」でも、例えば「ミッドサマー」の様に、主人公も観客と同じ視点で「謎」を共有してくれる作品は、観客のストレスは少ない。こういう作品は何度も観て、自分のペースで理解を深めることが楽しくなるだろう。
しかしテネットはやや異なる。作品中の人物達は、今回のテーマである「時間の逆行」について既に理解しているし、主人公も驚異の理解度で事態を把握する。しかし観客側は理解が追いつかないまま、ジェットコースターは速度を上げる。徐々に観客は焦る。
やがて作品は、物語を理解している前提で、次々と伏線改修やどんでん返しを展開する。観客は、何やら凄いことが起こっているのは分かるが、どう凄いのか分からないまま置いてけぼり。これが更なる焦りとストレスを生み、やがて「もういいや」となって理解するのをやめてしまう。「伏線回収ドヤァ!!」ってされても、此方はイマイチ理解できておらず「お、おぅ」。感動も半減、そんな感じである。
ノーランはセリフや映像が大変緻密な為、無駄なシーンやセリフが殆どない事は分かる。しかしこと我々人間は「タイムパラドックス」モノを理解しにくい脳の構造をしており、それをアクション映画のスピードで説明されても、瞬時に飲み込めないのである。
つまり、何度も見れば意味が分かるのだろうが、展開は知ってしまっている為、それによるカタルシスはもう得られないだろう、という事である。ライムスター宇多丸氏の言葉を借りるなら、「知らなかった頃の自分には戻れない」のである。
時間を逆行できても未来は分岐しない、この映画のテーマそのものである(皮肉)。
さて、この先起こる展開やアクションを知った上で、どれだけこの作品を何度も観たくなるだろうか。何度か観てようやく意味が分かったとして、どれだけ感動が得られるだろうか。
PROレビュアーの方々が軒並み高得点を付けながらも、内容について解説してくれず「理解するのは云々」と書いてる辺り、お察しである。勿論、映像クオリティや、息をもつかせぬ展開の速さなど、高評価な部分も多々あるが、それをも殺してしまっているのが前述した部分である。
自分はノーランファンであるが、この作品については「観客へのアプローチの仕方」に疑問視せざるを得ない。