「この“平和”を取り戻してくれた英雄たちへ」劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME ryo-gaさんの映画レビュー(感想・評価)
この“平和”を取り戻してくれた英雄たちへ
同時上映の『セイバー』評でも書いたが、
まずはこの映画を届けてくれた全ての人々に感謝を捧げたい。
そして、本作はモヤモヤの残る『ゼロワン』テレビ評も覆すほど、最高の一作になったのではないか。
冒頭からフレッシュさ満載の杉原アクション炸裂。
『劇場版アギト』もビックリの腕吹っ飛びや、
『ファイズ』顔負けの発光スーツの美しいぶつかり合い、
ドローンを用いた車窓ぶち抜きのカメラワーク、
銃撃の反動を使い攻撃を回避する敵、
統率の取れたAIMSと烏合の衆の敵兵の対比など、
将来的にもっと杉原監督の画づくりを見たいと舌を巻いた。
どれほどアイデアの宝庫なのだ…。
そして、少しずつ物語の骨格が見え始めると
現実世界で起こっているコロナ禍をストーリーに重ねずにはいられない。
ガスマスクなしでは出られない外界、“選ばれた者"、負の感情を募らせる人々。
まさしく、今世界全土を巻き込んでいる未曾有のウイルス騒動ではないか。
現実世界ではいつになればワクチンが実用化されるのか、
実用化されても結局その恩恵をあずかれるのは一部の人(選ばれた者)で市井の人々にも行き渡らないのではないか、
愛する人に会えず負の感情が渦巻いて自分や他人を傷つけるのではないか。
多くの評論家が『社会派エンターテイメント』と銘打ったように、本作はまさに『現代の世界(REAL×TIME)』を
描いた傑作となっている。
ナノマシンとAIの融合体というアイデアも脱帽した。
脚本の高橋氏は、(子供向けにはやや難しいのではとも思うが)地に足がついた大人も唸る傑作に定評がある。
そういえば、同氏の過去作『仮面ライダーエグゼイド トゥルー・エンディング』に、心なしか似ている気もする。
もちろん、ゼロワン要素は引き続き垣間見える。
シリアス時にもギャグを挟まずにはいられない或人、
或人の横がとても収まりのいいイズ、
文字通りの一匹狼となった不破、
技術者として戦士として前線に立つ唯阿、
世界の悪意を滅ぼす迅と滅、
相変わらず都合のいい正義の味方顔する(今回の件も含めた全ての元凶)天津など。
また、唯阿・亡・シェスタが天津をモニターで見た時の
『うわぁ…』みたいな表情が個人的にツボってしまった。
あと滅の敵を迎え撃つシーンでの主人公感が、えげつない。
特筆すべきは本作が、筆者の考える『ライダー映画の名作たる所以』を数多く抑えている。
一つは『アクション・作劇が革新的であること』だ。
滅びの飛び降り変身や、ナノマシン描写、迅の空中戦、銃撃の反動を背中の翼で耐える不破など、
ロボットアニメやMARVELから得ているであろうインスピレーション全開の杉原監督には賛辞を送りたい。
まさにそれに呼応するかの如く、渡辺アクション監督の演出も相まって、まさに令和の映画となっている。
二つ目は『バイクアクションがあること』。
ライダーのアイデンティティともいえるバイクアクションの精度は、映画全体の精度とも言える。
本作では唯阿の華麗すぎるバイクアクションが、軽々と予想を超えてくれた。
操縦しながらの銃撃もしっかりとおさえ、並々ならぬ本作への意気込みを感じた。
三つ目は『名悪役がいるということ』だ。
本作では日本映画界の雄、伊藤英明氏のパフォーマンスが圧倒的だ。
TV本編最終回で情報解禁された日から、とてつもない衝撃と高揚が筆者に走っていた。
山本耕史氏の出演もそうだったが、まさにフィナーレを飾るにふさわしい役者が揃ったといるだろう。
冒頭の演説、鋭さと冷徹さを感じる視線、堂々たるその佇まい、一転して優しさと暖かさが残っていた頃の表情、
もはや文句のつけようもない演技で、レギュラー陣に負けずエスを力演していただいた。
また、エデンの変身シーンのカッコ良さ・美しさ・恐ろしさ・(理由がわかった時の)切なさは歴代ベスト級だろう。
クライマックスに並び立つ或人とイズ、
敵の目線を介して描かれる2人の息の揃ったコンビネーションに涙腺は崩壊。
エスの愛する人との悲しい再会も、2人の演技力の高さに魅了された。
まだまだ書き忘れていることもあるように思えるが、
ひとまずゼロワンの素晴らしすぎる集大成に大満足だ。
来年の『滅亡迅雷』スピンオフも楽しみだが、いつの日かまた或人とイズの笑顔を観たいものだ…。