「身近な人を助けたいと思う気持ちと国家分断の労働課題」ファヒム パリが見た奇跡 h.h.atsuさんの映画レビュー(感想・評価)
身近な人を助けたいと思う気持ちと国家分断の労働課題
どんな悪党でも、家族や身近な大切な人を守りたいという気持ちを持っている。それは善悪二元論を超えた、人がもともと持っている本能。
本作をバングラ出身のチェスの天才少年がフランスの年代別チャンピオンになるまでのサクセスストーリーとしてみても純粋に楽しめる。
だが、もっともこの作品で注目すべき点は、フランスが直面する移民・難民受け入れの問題だ。
18世紀フランス革命以降、人間の自由と平等をかかげる人権大国として多くの移民を受け入れてきた。戦後復興期も不足する労働力を補うために北アフリカ諸国からの移民を受け入れている。
しかしフランスが進めてきた「同化政策」がうまくいかず、現在は機能不全に。移民は貧困の連鎖から抜け出せず、失業に苦しむネイティブの労働者は大量の移民のせいだと敵視する。移民に対する差別や偏見は相手に伝わり、双方の分断は高まるばかりだ(2019年に公開されたLes Misérablesでも移民の厳しい現状と衝突の負の連鎖が生々しく描かれている)。
世論や極右政党の国民連合の突き上げもあり、難民支援でも寛大な受け入れ政策は取りにくい状況。しかし、優秀な能力を持つ人材は積極的に受け入れるとのこと、ファヒムもその恩恵を得られたということだろう。
だが、420万人の失業者を抱えるフランスでは、単純労働者を受け入れる余裕なんて全くない。
加速度的に少子高齢化が進み、絶対的な労働力不足が指摘される日本。積極的な移民受け入れの門戸を開いていくのか。いかない選択肢はあるのか。移民社会フランスの今の姿は、決して他人事では済まされない。
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