「名作の名を騙った凡庸な恋愛映画」ジョゼと虎と魚たち(2020・アニメ版) おとらさんの映画レビュー(感想・評価)
名作の名を騙った凡庸な恋愛映画
他のレビューにある通り、原作のストーリーと設定を引用した全く別物の作品。
時代設定やラストの展開を改変することは面白い試みだと思うが、今作では原作への敬意が感じ取れなかった。
まず原作や実写版は、障がい者への偏見や人々の悪意と言った社会の負の側面を生々しく描いたことで、主人公たちの感情やストーリー展開にリアルな輪郭を与えていた。
しかし、今作ではその輪郭が酷くボヤけていたように思う。
何故、ジョゼは社会と繋がりを切られ、精神的に成熟できていなかったのか?
何故、祖母とジョゼは世間の人々を「猛獣」「虎」と呼び怖れ、悪意の気配に過剰に敏感なのか。
この設定の背景を深掘りしなかったことで、今作はまるでディズニープリンセスシリーズを劣化させた様なチープなメルヘン恋愛譚になってしまった。
それが作りたければ、ジョゼと虎と魚たちの名を冠する必要はなかった。
原作では、祖母世代の障がい者に対する価値観やジョゼの過去のトラウマなど負の側面を生々しく描いていた。
そこから目を背けた今作では、あまりにもタイトルの「虎」が弱々しくなってしまうし、主人公達の葛藤の描写の印象も凄まじく弱々しくなった。
実写では恒夫との恋愛を経て、社会や自分の過去や未来と向き合い、自立への一歩を踏み出そうとするジョゼの姿が観客にカタルシスを与える。
しかし、今作にはそれがなく原作のテーマを大きく踏み外している。
その原因は、ジョゼに芸術の才能を加えたことである。
これは原作のテーマやリアルな障がいの社会問題から逃げたこと以外の何者でもない。
ジョゼを自立させ、映画をハッピーエンドに導く為の酷くチープな舞台装置である。
ここまで原作レイプしているとやはり気持ちの良いものではない。
制作者側の思惑が透けて見える。
売り上げを達成する為だけに金看板を拝借したありふれた凡作である。