「確かな裏付けと映像による物語の厚み」ジョゼと虎と魚たち(2020・アニメ版) ハムカツ太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
確かな裏付けと映像による物語の厚み
総合して素晴らしい作品だと感じました。
良かった点
・ストーリーがご都合主義ではない
おばあちゃんの影響もあり、引きこもりであったジョゼを、スネオが外に連れ出す事で、少しずつジョゼの世界が広がっていく。そして、おばあちゃんが亡くなり、1人になったジョゼは、スネオの留学を聞いたことも重なり、自立しないと行けないと思いから、スネオやカナに褒められた絵すらもやめてしまう。
そこでスネオは、絵をやめてしまうジョゼに対し、ただ「諦めるな」という思いを伝えるが、届くはずがないのです。なぜなら、スネオとジョゼでは、健常者と身体障害者で立っているステージが違うからです。スネオはジョゼの気持ちが分かってるつもりでも、ジョゼからするとそれはわかっていない。これまでの辛い経験から、同じような境遇以外の人とはどうしても分かり合えないと信じ込んでいるから。
しかし、スネオはジョゼを助けるために、交通事故に遭い、幸か不幸かジョゼと同じような境遇になり、初めてジョゼの辛さを理解する。その後、マイがスネオを励ますもの立ち直れなかったのに、ジョゼからのエールでスネオは再び立ち上がる。ここには、自分と同じ又はそれ以上に辛いステージのジョゼからの熱いメッシージだからこそである。
また、ジョゼ自身も自分に外の世界を見せてくれ、人間として成長させてくれたスネオに対しての恩返しでもあるため、2人はお互いを助け合う構造となっており、この2人だからこそうまく行ったと思わせてくれるストーリー展開でした。
・描写
今作で、気になったのはジョゼの動く姿です。ジョゼが動く姿は、人魚が陸に上がって移動する時の姿と重なる動作に見えました。長めのヒラヒラとしたスカートに、両足を閉じ横座りで移動する姿はが重なります。これは、ジョゼの頭の中で描かれる人魚のイメージからくるものなのかと感じました。
また、ジョゼの絵本のシーンで、今までジョゼが人魚に憧れていたことがわかります。ジョゼが書く、人魚の髪は、まさに髪を切る前のジョゼそのものでした。よって、髪を切ったことの意味として、人魚という空想の世界に生きてきた人生に終止符を打ち、現実に向き合い生きようとするジョゼの覚悟も伝わります。
ストーリーの内容と説得力のある映像によってさらに厚みのある物語となっており、個人的にはひさびさに当たりを引いた感覚でした。