「いいやつばっかり!」ジョゼと虎と魚たち(2020・アニメ版) おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
いいやつばっかり!
タイトルと予告からファンタジー的な作品かと思いきや、もっともっと訴えてくるもののある、中身の濃いラブストーリーでめちゃくちゃよかったです。
強気で感じの悪いジョゼが、恒夫にしだいに心開く感じがとてもよかったです。二人で外出し始めた頃のワクワクしたジョゼの様子がとてもかわいらしく見えました。と同時に、外の世界に憧れをもちながらも、「そこに何かを望んではいけない」と自分の気持ちに蓋をしてきたようなジョゼの生き方が垣間見える、素敵な描き方でした。
そんな外出を繰り返し、微笑ましいやりとりを通して、しだいにジョゼと恒夫の距離は縮まっていきます。そこに起きる突然の悲劇。恒夫は、ここで初めてジョゼの置かれた状況、彼女の胸の奥にしまわれた本当の気持ちを知ったことでしょう。わかった気になってかける健常者の言葉は、時に残酷に障害者を傷つけます。相手の気持ちがわかるなんて、実は傲慢なことで、所詮わかった気になっているに過ぎない、そんなことを訴えかけてくるようでした。
そして、それはジョゼにとっても初めて気づかされたことだったのかもしれません。だから彼女は、事故原因の自責の念、恒夫への恋愛感情、管理人への恩返し等、さまざまな気持ちが入り混じって、彼を全力で支えたいと思ったのではないでしょうか。
そんなジョゼも素敵ですが、恒夫のバイト仲間もいいやつばかりです。特に舞!ジョゼと本気で張り合いながらも、恒夫の気持ちを察して立ち回る彼女は、本当に素敵な女性です。何気に松浦もいいやつでした。
キャストは、恒夫を中川大志くん、ジョゼを清原果耶さんがそれぞれ演じていました。声優以外のキャスティングは基本嫌いですが、中川大志くんは違和感なしでした。「ソニック・ザ・ムービー」のソニックもなかなか上手でしたが、本作ではもはや文句のつけようもありません。シーンごとの恒夫の心情がしっかり伝わってきました。
一方、清原果耶さんは、天才的演技で少女から大人の役まで幅広くこなす実力派女優だと思いますが、声優はやはり別物といった印象です。もちろん及第点ではあるのですが、感情の高ぶるようなシーンでは自然さに欠け、ちょっと物足りない出来栄えでした。とはいえ、終盤での絵本の読み聞かせシーンはがっつり泣かされました。
脚本も絵も演技もとてもよかったのですが、もったいないのラストの坂道シーン。出会いのシーンの再現なのはわかりますが、いくらなんでもこれはご都合主義が過ぎませんか? それでも、その後のエンドロールまでしっかり楽しませてくれたので、鑑賞後の満足感はかなり高かったです。おすすめです。